先進小売企業への道のり~多様化する消費者側の変化を乗り越えて――第1回:オムニチャネルコマース成功の条件

作成者:土屋 貴広 投稿日:2014年7月18日

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USA, Illinois, Peoria, Woman with smartphone reading barcode from window displaySAPジャパン小売業界担当の土屋です。私は日々の活動の中で小売業の皆様と会話する機会が多いのですが、「他社との差別化を図るためにどのようにITを用いるのか?」という議題が最も多いです。

消費者の購買行動が、小売主導の時代から消費者主導へと確実に変わってきており、特に、モバイルデバイスの普及やITの進化により、その変化は大きく加速しています。

ただ、小売業にとってみれば投資を伴う話なので、変革する理由が明確でなかったり、得られる効果が不明確だったりでは前に進めません。その一方で、グローバルに目を向けると、これらの消費者側の変化をチャンスととらえ具体的な効果を出している企業も少なくありません。隣国が接近する海外マーケットの方がその脅威は大きく、市場環境としては日本よりも困難なのかも知れません。私は、SAPという会社にいることもあり、同じ小売業を担当する海外の仲間とコミュニュケーションを取ります。そこで聞く各社の変革ドライバーは、十分日本の小売業にも適用できる部分が多いと感じています。

このような背景のもと、3回シリーズで、「先進小売企業への道のり~多様化する消費者側の変化を乗り越えて」と題して、日本の小売業が今直面している課題とソリューション提案を行っていきたいと思います。1回目は小売業界における差別化要因であるオムニチャネルコマースを題材に、「オムニチャネルコマース成功の条件」というテーマでお伝えします。

オムニチャネルコマースの本質とは?

かつての商品主導の時代では、小売あるいはメーカーが市場をコントロールできていました。しかし、消費者主導の今の時代においては、他社よりも圧倒的に安く販売し続けるか、他社が追随できない革新的な商品を投入し続けるかしないと市場をコントロールできなくなっています。 これらを実現し続けるのは非現実なので、顧客が欲しいと思ったタイミングを逃さず販売すること(究極的な販売機会ロスの最小化)がオムニチャネルコマースの本質なのかも知れません。

そのため、オムニチャネルコマースの実践は、小売業が消費者と接点を持つオンライン、オフラインを含めたあらゆるチャネルを通じた活動を意味します。しかしながら、これらの要素をすべて全消費者に訴求することは、経済的にも物理的にも非現実的になってしまいます。そのため、特定の消費者の趣味・嗜好に基づき、特定のアクセスチャネルを付加し従来のオペレーションを再編成する必要があるのです。

その実現には、サービスの供給側である小売サイドに、消費者の多様な行動を上回るデジタル化を出来るかが効率的なオペレーションを実装する決め手になると言っていいでしょう。

小売業は新たな時代にどんなデジタル化を推進すべきか

小売業としては、消費者側の変化はコントロールできないため、いかなるチャネルから入ってきても、即座にそのリクエストに応えられることが重要です。スマートフォンで閲覧した商品の在庫はあるのか、なければ納期はいつになるのか、類似の別の商品はあるのか、などなど。同時に、顧客属性や趣味や嗜好、行動パターンなどに基づき、商品のレコメンデーションを行ったり、広告を表示したりします。また現在では、SNSやブログなどへのエントリーやつぶやき、コメントなど、小売業の側はそれらをデータマイニングすることで、サービス投入に経過を把握していく必要もあります。当然、購買行動そのものも必要ですし、その売り筋を見極め自動補充できる機能など、さまざまな設備が必要となるのです。

上記を実現するためには、以下のような3つのレイヤーでデジタル化を整え、多様化・変化する消費者に応えることが必要であるとSAPは考えます。

1)フロントエンドレイヤー(差別化)
消費者との直接の接点を構成するレイヤー。ウェブ、モバイル、店舗、ソーシャルメディアなどの具体的接点から構成されます。SAPではこのレイヤーを『差別化』(Differentiation)と呼んでおり、hybrisなどのコマースプラットフォームを擁しています。

2)ミドルエンドレイヤー(競合)
フロントエンドの機動性を支えるエンジン。フロントから入ってきた顧客単位の各種情報をリアルタイムで処理し、必要な情報をフロントエンドとバックエンドに送り出します。このレイヤーでは、顧客単位の販売動向から全体の販売予測を行うと同時に、それらを販売/商品/品揃え計画、プロモーション、マークダウン、自動補充などのオペレーション業務までに反映させることで効率的なオペレーション基盤を実現します。SAPではこのレイヤーを『競合』(Competitive)と呼んでおり、SAP Customer Activity RepositoryというSAP HANA プラットフォームを擁しています。

3)バックエンドレイヤー(基幹)
ミドルエンドから得られた情報や指示に基づき、実際のマーチャンダイジング、在庫、倉庫、顧客管理、経理、人事などの従来SAPが提供してきたアプリケーション群が位置付けられます。SAPではこのレイヤーを『基幹』(Core)と呼んでおり、SAP Merchandising、SAP CRM、SAP Extended Warehouse Management、などのバックオフィスソリューションを多数擁しています。

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つまり、表向きのフロント(差別化)だけが整っていても、その機動性を担保するミドル(競合)とそれを支えるバックオフィス(基幹)がきっちり連携していないと、オムニチャネルコマースは一過性のモノになってしまうのです。 企業のIT投資がより差別化領域にシフトする今、コア領域をシンプル化し、そこからのインプットをフロントの機動力に変えるミドルに投資するなど、SAPの活用方法が大きく変化しているのも事実です。

オムニチャネルコマース実現のために検討すべき4つのポイント

昨今の消費側の変化は、今まで小売企業が投資して仕組みを複雑化させているという側面もあります。店舗と言うシングルチャネルで構築したモノがマルチチャネルになるだけでなく、それらのチャネルは有機的に連動しなければならないのです。ここでは、具体的に検討すべきポイントについてお話します。それは、以下の4点にまとめられます。

1)ユーザーエクスペリエンス向上
すべてのコンタクトチャネルでのブランド、対応力、サービスレベルなどの一貫性を提供・演出すること

2)アジャイルマーケティング
多様化時代に画一的に解を求めるのは困難。ならは、施策実行をスピードアップさせ経験値を多く積むこと

3)カスタマーインサイト力とビジネスインサイト力(需要と従来ビジネス改善に関わる洞察力)
顧客との膨大なインタラクションからその傾向値を探り、既存ビジネスにおける効率・改善点を見出すこと

4)マーチャンダイジングの合理化
従来オペレーションを効率化、合理化すること

このようなポイントを念頭にオムニチャネルコマースおよび関連機能を組み立てることにより、一過性では無く、企業の実態に即した継続的な改善が実現できると考えます。

機動性を上げ、現場対応力を高めよ

オムニチャネルコマースを実現するには、ミドルを含めた範囲で考える必要があります。消費者接点からの複雑なインプットに基づき、それらを機動力に変換する存在が、企業内の改善余剰(リソース)を生み出し継続的な改善を実現するのです。この改善余剰が作れなければ、継続的はなくなり一過性なモノになることは言うまでもありません。

さらに、ネットを始めとするほとんどの顧客接点で要求されるのはリアルタイム性。となると、これら支えるバックオフィス群(基幹)までもが、「リアルタイムでコミュニュケーションできる」という制約が課せられることになります。これらはいわば小売業の基礎体力にあたるもの。この基礎体力こそが、あらゆる変化に対応し続けるための業務基盤となり得るとSAPは考えます。

次回は、ここに言及した基礎体力としての『競合』と『基幹』のうち、『基幹』を中心に、いくつかの具体的なソリューションについて、「小売企業の基礎体力強化」というテーマでお届けします。

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