日本の産業用機械業界を襲うIndustrie 4.0に向けた新たな試練――第2回:変わるために必要なこと


SAPジャパンの原田です。本連載では、「日本の産業用機械業界を襲うIndustrie 4.0に向けた新たな試練」と題して2回シリーズでお届けしています。前回は、「予測の優劣が競争優位を左右する」というテーマで、新たな産業革命がおよぼす影響や課題、海外企業の事例などについて見てきました。そこでは、事業における競争優位のポイントが、事前予見や予測の精度に大きく左右されることをお伝えしました。

翻って、日本の産業用機械業界を見ると、多くの企業が従前と変わらないオペレーションを行っています。工場内の生産ラインの改善は日本企業の得意とするところではありますが、こうした現場では職人技のノウハウに重きが置かれているためか、組織全体として大きな変更を加えづらい状況にあるように思えます。このままでは、世界の流れに大きく後れを取りかねません。

今回は、このような問題意識から「変わるために必要なこと」というテーマでお届けします。

なぜ、日本企業は変われないのか

273395_l_srgb_s_gl日本企業の特徴の一つが、ボトムアップ、あるいは合議制と呼ばれるものです。これは、会社は経営者だけのものでなく、そこに属する従業員の総意によるものであるという考え方に基づくものです。従業員全員に日々の業務を「自分のこと」としてモチベートさせ、製品やサービスの高品質を実現しています。そうしたことから、工場における改良・改善についても現場を中心に成果を上げてきました。他方、日本の企業では、トップダウンによる変革は難しいのが実情です。そもそも、トップダウンで変革しようとする経営者自体が少なく、現場任せのケースも少なくありません。現場に頼るあまり、トップダウンによるアプローチを難しくしているのです。

これに対し、多くの海外企業、グローバル企業ではトップダウンによる大胆な変革を実現しています。たとえば、先日、筆者が出会ったある中国の産業用機械関連メーカーの場合、従来、中国向けの製品はカスタマイズされた独特のシステムによるものでしたが、このままではグローバル市場で通用しないことに気づき、これまでの製造方法をすべて捨て、SAPの力を借りて、新しい製造システムを導入しました。現場志向であったなら、それまで慣れ親しんできたプロセスを捨てることなど、とうていできなかったでしょう。かくも大胆な決断と実行ができるのかと、大変衝撃を受けました。

産業用機械業界における本質的な課題:BOMの刷新

では実際に、トップダウンによる変革を実現するために何が必要なのか、具体的な手法を探っていきましょう。

リアルタイム予測に基づいて生産量や作業手順を柔軟に変更するためには、各現場に対応する仕組みが不可欠です。そこで重要な役割を果たすのが、前回触れたBOM(部品表)です。BOMというのは、設計・製造する機器や製品に必要な部品の一覧表のことです。そこには、品名、型式、メーカー名、数量、リファレンス番号、仕様、材質などの情報が必ず含まれています。BOMにはいくつかの種類があり、マスターBOM、設計BOM、製造BOM、購買BOM、サービスBOMなど、目的に応じて整理されています。つまりこれらは、ものづくりに関わる設計からアフターフォローにいたるまでの、長年にわたる部品の総括管理データーベースなのです。品質管理や製造者責任などのコンプライアンス対応上も、極めて重要な役割を果たすものです。

生産量や作業手順を柔軟に変えたり、新たに派生商品を製造したりするためには、必要な部品がこのBOMに含まれていなければなりません。万一該当する部品がない場合は、代替できる部品を即座にリストの中から選び出す必要があります。また新規の部品が、中長期的に必要になる場合にはBOMに適宜加えていく必要があります。つまり、柔軟に対応できるような部品が受け皿として不可欠なのです。

ところが、日本企業の場合、実はここに大きな問題があります。その問題を生み出しているのが、以下の2点です。

・組織の壁
BOMには種類がありますが、それらはそれぞれの組織で別々に管理されています。設計BOMは設計部門、製造BOMは工場、購買BOMは調達部門、サービスBOMは保守管理部門といった具合です。多くの場合、組織の壁に阻まれて、相互に互換性を持つBOMを持たず、いざこれらをすべて統合しようとするとかなりの負荷を要する場合が少なくありません。

・「職人」の壁
各部品の仕様は、担当者の裁量で決まるケースがあります。また、ピッタリと適合するものがない時は、ありものの中からなるべく近いものをとりあえず間に合わせて供給することがあります。つまり、「職人」の領域で、その場に最適な仕様が決められるものが多く、こういった部品はほかへの転用が難しくなります。

重要なのは、単にあり合わせの部品があるかではなく、品質や安全性などの条件をクリアしながら、柔軟な製造に対応できるかどうかということです。そのためにはこうした要求に十分応えられるようなBOMの統合データベースが必要になります。このようにBOMを刷新することが、次世代の産業用機械メーカーとして行うべき第一歩と言えるでしょう。

品質基準ポリシーは定められているか

BOMの刷新において、一番重要なポイントは品質基準です。会社としての品質基準ポリシーを定め、それに準拠しながらBOMを刷新することが不可欠です。なぜこの部品を選んだのかという理由や部品に求められる要件などを、組織の壁を越えて全社基準として整備しなければなりません。そうすることで、品質や安全性、製造者責任に関するコンプライアンスにも十分対応することが可能になります。現状は、この部分が曖昧な日本企業が大半を占めているのではないでしょうか。

これは近年、あらゆるところでその重要性が指摘されている透明性の確保や可視化にもつながります。この土台がしっかりと構築されていれば、職人や専門家のノウハウに頼ることなく、高度で柔軟な製造システムを維持することができるでしょう。また、熟練者のリタイアという問題にも十分応えることができるはずです。

つまり、品質基準を定めることではじめて各種BOMの機動的連携ができるようになり、連携範囲を、設計や製造だけでなく、保守メンテナンスを含むサービスにまで広げることが可能になるのです。そしてこの統合データベースにより、事前予見や予測の結果を無駄なく設計や製造にフィードバックさせることができるようになるというわけです。

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今、日本の産業用機械業界は変わるしかない

以上、2回にわたり「日本の産業用機械業界を襲うIndustrie 4.0に向けた新たな試練」という題目のもと、お話ししてきました。1回目は「Industrie 4.0によって引き起こされる本質的な変化は何か」という視点から見ていきましたが、結論としては「事前予見や予測の優劣が企業の競争優位性を左右する」というものでした。これは取りも直さず、ITの位置づけが「効率化・コスト削減のためのツール」から、「売上拡大・競争優位性強化を目指したエンジン」になったことを意味しています。

2回目は、「Industrie 4.0時代において、日本の産業用機械業界が競争力を維持・強化するポイントは何か」という視点から考察しました。一般的に日本企業はボトムアップ型で、トップダウンでは変われないという文化があるだけでなく、現場重視の姿勢が時としてトップダウンを阻害する要因になっているという課題に言及しました。これを解決するのが「BOMの刷新」であり、製品の品質、安全、製造者責任などを明確にできるような、全社統一の品質基準の存在です。標準化や透明化が実現できれば、もともと品質ではトップレベルの日本企業のこと、間違いなく世界のリーダーとして業界を牽引できるでしょう。これにより、インダストリー4.0(Industrie 4.0)のメリットを120%享受できるに違いありません。我々SAPも、皆様のこうしたイニシアチブを強力に支援・推進すべく、引き続き活動を続けてまいりたいと思います。

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