SAP re-BPR FORUMから ナレッジキュレーター山口 周氏の「価値を生み出す人材」についての提言


新型コロナウイルスの流行により、世界は「ニューノーマル(新常態)」に突入しています。新しい生活様式が求められ、働き方も変わってきています。この状況下で、2019年7月に刊行した『ニュータイプの時代』(ダイヤモンド社)があらためて注目されているナッレジキュレーターの山口 周氏が、今後の人材戦略に求められる思考の転換について SAP re-BPR FORUM で語っています。

(SAP re-BPR FORUMの講演から)

「オールドタイプ」の対極にある「ニュータイプ」の思考・行動様式
山口氏は著書『ニュータイプの時代』で、20世紀後半から21世紀初頭にかけて評価されてきた人材は「オールドタイプ」として価値を失い、これまでとはまったく異なるタイプの人材が「ニュータイプ」として、今後大きな価値を生み出し、評価されると述べています。同書では正解のない時代に求められる思考・行動様式を24個の項目に分けて説明していますが、フォーラムではその中から5つの項目を取り上げ解説しました。
山口周氏スライド
(1)正解でなく、問題を探す
かつて優秀な人材の条件は、データを集めて分析し「正解」を探すことでした。しかしAIを含むデジタルテクノロジーとインターネットの急速な進化によって多くの人々が正解に至ることが容易になり、その結果「正解のコモディティ化」が進み、正解を導くだけでは差別化が難しくなっています。時を同じくして、ハーバード、スタンフォード、MITなど米国有数のビジネススクールの志願者数は減少。スクールで教えてきた「正解を導き出す能力」が、ビジネス市場で価値を生まなくなりつつあるためです。
現在は「問題を探す」ことにこそ希少価値があります。「問題」とは何かと考えるには、現在の世の中に対してビジョンを持つことが必要になります。まず「ありたい姿」を持ち、それを現状と対比して考え問題を作り出すことが今後の価値の源泉になります。

(2)予測するより、構想する
山口氏は、「複雑な予測というものは原理的に必ず外れる」と指摘します。今回のコロナ禍により、それ以前に立てられた経済予測も、経営計画も使い物にならなくなりました。これは今回だけの現象ではなく、2008年のリーマンショック直前に発表した金融機関・シンクタンクの経済予測も、ことごとく外れていることで明らかになっています。
一方、1971年にアラン・ケイが発表した「Dynabook」のコンセプト、1987年にアップルが発表したビジョン「Knowledge Navigator」は現在のタブレット端末そのものです。1年先が予測ができなくても、数十年先のことは当たっているわけですが、ここに「予測」と「構想」の違いがあります。どうなりそうかを予測するのではなく、自分自身が世の中/未来をどうしたいかと構想することが、ニュータイプの行動様式となります。

(3)ベテラン・専門家ではなく、ワカモノ・ヨソモノを活かす
GAFA創業者の、起業時の年齢は平均24歳。パラダイムシフトの概念を提唱したことで知られる科学史家のトーマス・クーンは著書の中で「本質的な発見によって新しいパラダイムへの転換を成し遂げる人間のほとんどが、年齢が非常に若いか、或いはその分野に入って日が浅いかのどちらかである」と述べています。平成の30年間で時価総額1兆円を超える新規事業がベテランから生まれたことは皆無で、ニューノーマルの状況下ではなおさら、ワカモノ・ヨソモノを活かす時代が来ています。

(4)一所懸命に働くより、組織を越境する
山口氏は、多くの経営者から「現場からイノベーションにつながるアイデアが出てこない」という声を聞いてきました。しかし実際は、ほとんどの人がイノベーションの種を見ても、その可能性を理解したり評価することができません。グラハム・ベルから10万ドルで電話の特許買い取りを打診された当時全米最大の電信会社は「市場性がない」と判断、無声映画の時代にトーキー(音声つき映画)のコンセプトを聞いたワーナーブラザースも「俳優の声を聴きたい人などいない」と反論したといいます。蓄音器を発明したエジソン自身、これが音楽再生に用いられるとは考えていませんでした。皆、それらが実現した後の世界を想像できなかったのです。
イノベーションを成し遂げた事例には、「直属の上司以外」が拾い上げたというケースが多く見られます。オールドタイプは越権行為をせず、縦割りで仕事をしてきましたが、ニュータイプに求められるのは横のネットワークです。ダメ出しされたアイデアを拾う人がいれば、そちらの判断が結果を出すかもしれないということです。

(5)綿密に計画/実行するより、とりあえず試す
野村総合研究所が東証一部上場企業の社長に対して「次世代経営者に求められる資質と能力」を訪ねたアンケートでは、決断力、創造性に続いて「責任感・不退転の覚悟」が37%を占めていました。しかし、Amazon.comは上場以来70の事業に進出しながら、3分の1は早々に撤退しています。現在のように不確実性が高い環境下で不退転の覚悟を求めれば、何も始まらないのは当然のことです。「始め上手」ではなく「止め上手」になって、現状を打開していくほうが得策です。

以上、ニューノーマル時代に求められる5つの行動様式を見てきましたが、山口氏は現代の社会課題と向かい合うには、100年前にケインズが示したアニマル・スピリット(動物的野心)が重要と指摘。「ビジネススクールで学ぶ理論でなく、目の前の問題を解決せずにはいられないといった衝動がビジネスには必要ではないか」と語っています。

本編の全容は「SAP Re-BPR FORUM いま変革を止めないために学ぶ」でご覧いただけます。