間接材の調達・購買を「見える化」する“理”と“利”

前回、間接材の調達・購買プロセスを一元化し、「見える化」しないと、「購買不正」という犯罪を誘発する恐れがあるとお話ししました。ただし、調達・購買の見える化が生むメリットは、不正リスクの低減だけにとどまりません。調達・購買履歴の一元管理と見える化は、全社支出の分析を可能にし、コストの適正化/削減につなげられるという効果ももたらすのです。ここでは、そうした見える化のメリットについて改めてご紹介します。

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見える化が生むもう一つの効果

言うまでもなく、間接材の調達・購買は、すべて「会社による買いモノ」です。そのため、間接材に対するあらゆる支出は見える化され、それぞれの正当性や妥当性、戦略性が客観的に検証できるようでなければなりません。

ところが、日本企業の場合、間接材調達・購買のプロセスが現業各部門・部署、あるいは担当者個人の中で閉じていて、外部から見えないことが間々あります。その場合、どういった目的と判断基準の下で、サプライヤーが選ばれ、承認され、購入されたかの情報が、担当部門・部署、ないしは担当者個人の中で閉じてしまいがちです。

前回お話ししたとおり、このような調達・購買の“ブラックボックス化”は、「購買不正」という犯罪の発生リスクを高めます。また、犯罪とまでは呼べないものの、担当者とサプライヤーの馴れ合いや個人的な嗜好によるサプライヤーの固定化、費用の高止まりといった問題も引き起こしがちです。

調達・購買の見える化には、このような問題の発生を抑止する効果があります。また、もう一つ、全社の間接材支出についての分析と、それによる適切なコスト削減プランの策定を可能にするという効果ももたらします。

言い換えれば、調達・購買の見える化によって、調達・購買の正当性だけではなく、その妥当性を正しく判定し、支出の適正化、あるいは削減につなげていくことができるというわけです。

加えて、現業部門(予算執行部署)と調達・購買部門とで支出状況の共有化を促進すれば、調達・購買の戦略性をさらに高めることも可能になります。

では、間接材調達・購買の見える化を実現するには、具体的に何をどうすればよいのでしょうか。以下、その方法について見ていくことにしましょう。

見える化の対象とは?

まず、「監査」の観点から間接材調達・購買の正当性を点検する際には、次に示す9つの情報(「6W3H」の情報)が必要になるとされています。

1.誰が(Who)
2.どこから(Where)
3.何を(What)
4.いつ(When)
5.なぜ(Why)
6.誰の承認で(with Whom)
7.いくらで(How much)
8.どのくらい(How many)
9.どのようにして(How)購入したか

また、間接材に対する支出の正当性や妥当性を分析し、コスト削減のプランに活かそうと考えるならば、上記に加えて下記の情報も必要になります。

10.サプライヤーをどの様に選定したか
11.どのような契約を結んだか
12.どのような価格交渉を行ったか
13.サプライヤーの品質(製品/サービスの品質)はどうか

そして、あらゆる間接材の調達・購買について、これら13項目の情報をすべて記録していき、一元的に管理できるようにします。それによって、調達・購買の見える化が実現され、支出の分析が可能になり、結果として、コスト削減に向けた適切なプランが立てられるようになるのです。

見える化のための仕組み作り

ここまでの説明をご覧になり、「理屈は分かるが、そのような見える化の仕組みをどう作ればよいのか」と疑問を抱いた方もいるはずです。

実を言えば、調達・購買の見える化には、組織・制度・ITシステムの三位一体での仕組み作り(あるいは、仕組みの整備)が求められます。

例えば、ときおり、「調達・購買の情報なら、会社の経理システムからデータを取ってくればすべて確認できるのではないか?」といった考え方を見受けます。

ただし、経理システムは基本的にお金の出入りを管理するためのITシステムです。ですから、例えば、調達・購買の目的や意思決定プロセス、価格交渉などに関する詳細なデータが管理されているわけではありません。そのため、経理システムのデータだけでは、間接材の費用は確認できても、「なぜその金額か」の理由すらつかめないことになります。

そこで浮上するのが、調達・購買システムを使うという選択肢です。実際、SAP Aribaのシステムのように、しっかりとした調達・購買システムを有している企業は、調達・購買に関するあらゆる履歴情報を一元的に管理し、そこから支出分析に必要な情報を取り出すことが可能です。

ただし、そこにも落とし穴があります。それは、調達・購買システムの発注処理を経由せずに、経費精算だけで支払いの処理が行われてしまうことです。それによって、最終的な支出データが経理システム側にしか存在しなくなり、調達・購買の見える化と支出分析に必要な情報が一元管理できなくなるのです。

この問題を解決するには、調達・購買にかかわるすべての処理を、調達・購買システム上で一括して行うという制度作りが必要とされます。

例えば、ここ最近になって、コンプライアンス上の観点から、従業員の行動規範を厳格に規定し、その中で調達・購買に関する以下のようなルールを設ける企業が増えています。

「すべての支出は、調達・購買のルールとして規定され、承認されたプロセスを通してのみ行うことができる。これに反する支出については、会社は許可しない。また不正に支出が行われたと認められた場合は懲戒処分を行う」

また、こうした行動規範とは別に、全社規定の中に「購買規定」を定めて、『すべての支出は調達・購買システムを通す』ということを義務づけているところもあります。

このような制度を設けて、社内的な順守を徹底させることで、調達・購買システムによる支出情報の一元管理と見える化が実現され、全支出の分析と最適化へとつながっていきます。

さらに、組織について言えば、前回も触れたとおり、間接材に関する全社の調達・購買を管理する、あるいは一手に担う部門を設置するのが大前提です。

こうした組織が不在であると、調達・購買の制度を徹底させることも、情報のガバナンスと一元管理を実現し、維持することも、さらには、間接材に対する全社支出の分析・適正化も成しえないと言えます。しかも、調達・購買部門の設置は、現業部門の事務処理工数の削減という効果も生みます。これにより、“本業に集中できるようになった”と、調達・購買部門が現業部門から感謝される事例も多く見られるのです。

分析によるコスト適正化の実践

以上、間接材調達・購買をどう見える化するかについてお話ししてきましたが、次に、一元化された調達・購買データを使い、支出分析によるコストの適正化を図る一例をご紹介します。

支出分析の代表的な一つは、調達・購買した商材ごとに、サプライヤーにどの程度の金額を支払っているのかを見える化することです。

これにより、同じようなモノ/サービス(以下、「商材」と呼ぶ)を、合理的な理由もなく、複数のサプライヤーから購入していないかどうかを確認することができます。そしてもし、同種商材を複数のサプライヤーから購入していることが判明した場合には、サプライヤーの数を可能な限り絞り込むようにします。それによって、間接材の費用を大きく削減できる可能性が高まります。

実際、SAP Aribaのお客様の多くが、支出分析に基づくサプライヤーの絞り込みによって、大幅なコスト削減を実現されています。

その一例が、ある製造業のお客様のケースです。このお客様では、調達・購買組織が事業所・工場ごとに分かれており、間接材の支出分析も各所で個別に行われていました。その支出分析を、全社単位で行ったところ、同じようなドラム缶を工場ごとに異なるサプライヤーから調達していたり、同じような帳票を小ロットで複数の印刷会社に発注していたりといった事実が判明しました。また、携帯電話のキャリアやPC/複合機のサプライヤーも、拠点ごとにバラバラであることも分かりました。

そこでこのお客様は、本社とすべての事業所・工場で使うサプライヤーを複数選定し、本社でリバースオークション(買い手がサプライヤーを選定するための競争入札)を実施しました。その結果、間接材への支出を大きく減らすことに成功したのです。

戦略性を持った調達・購買に向けて

そもそも調達・購買戦略の基本は、サプライヤーに対する交渉力を高めることです。そのサプライヤーが業界で独占的な地位を占めているような特殊なケースでなければ、同種商材を1億円ずつ10社から購入するのと、10億円分の商材を1社から購入するのとでは、費用の適正化に向けた交渉力に大きな差が出ます。

もちろん、同種商材のサプライヤーを1社に絞ってしまうのは、リスクマネジメントの観点から言って適切ではなく、サプライヤーの絞り込みは2社までにとどめるのが安全です。ただし、代替のサプライヤーが準備できている場合や、戦略的な危険性がなく、1社にした場合のメリットが大きいのであれば、1社に絞ったほうが、コストメリットは得やすいのは間違いありません。

いずれにせよ、取引額が大きくなればなるほど、サプライヤーとの交渉がしやすくなります。また、サプライヤー側の対応も手厚さを増していき、あなたの会社の担当営業としてより地位の高いセールスパーソンが配置されるはずです。そうなれば、会社の要望や万が一の事態に対するサプライヤー側の対応力/対応スピードも高まっていきます。

一方で、ビジネスの現場では、自分たちの業務をよく知るサプライヤーを変更したくないというニーズがあり、調達・販売部門主導でのサプライヤーの絞り込みや変更に抵抗感を示す可能性があります。

実際、前出のお客様においても、一部の現場からサプライヤーの変更に反対する声が上がりました。それでも、『全社コストの削減によって、各現場での新しいサプライヤーの立ち上がりコストはすぐに回収できる』といった役員判断から施策遂行が決定されたといいます。

本稿の冒頭でもお話したとおり、あらゆる間接材の調達・購買は、会社による買いモノです。その支出は、全社を“利するもの”であることが基本で、全社の利益が、局所的な一時のニーズを満たすことよりも優先されなければなりません。

ゆえに、中央の調達・購買組織がすべてをコントロールするのがあるべき姿と言えます。そして中央の調達・購買組織が、調達・購買の見える化と支出分析を行い、支出の現状を経営層や現業部門に積極的に“見せる”こと──つまりは、支出の現状の関係者間での共有化を進めることで、経営や現場の戦略・知識・ノウハウも取り込んだ、より戦略的な調達・購買が可能になります。

企業が使う間接材は多岐にわたり、一つの部署が、すべての調達・購買の処理をこなすだけも大変です。ただし、SAP AribaのシステムのようなITに業務を集中させれば、調達・購買にかかわるすべての処理を効率化でき、かつ、全支出の見える化と分析を速やかに行えるようになります。そうしたITの力をうまく活用しながら、調達・購買の戦略的な最適化を推し進めてみてはいかがでしょうか。

なお、次回は、間接材コストの削減に焦点を絞り、その方法についてさらに掘り下げていきます。

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