中堅企業の課題、事業継承と 未曾有の人材難にどう対応するか

今後ますます深刻化すると予想されている人材不足問題。特に中堅中小企業では、自分の後を継ぐ人がいないという後継者問題で悩まされています。解決策はあるのでしょうか。

※ 本記事は、JBpressにて運営するBusiness Acceleration Labにて掲載したコンテンツです。

国内の中堅・中小企業で深刻化する「人手不足」と「継承者不足」

現在、あらゆる業界・業態の企業で人手不足の問題が顕在化しています。今後、日本はますます少子高齢化の傾向が進むことが予想され、人手不足の問題はまますます深刻化すると予想されています。こうした状況に歯止めを掛けるべく、外国人労働者を広く受け入れて労働力不足を賄おうという試みが進められています。2019年4月には外国人労働者の受け入れ拡大を可能にする改正入管法が施行され、各方面から制度上の不備を指摘されながらも、ひとまずは制度の運用が開始されました。

しかしこの新制度の下、新たに日本で働くことになる外国人労働者が就くことができる職種には制約が設けられており、企業における事務や営業などのホワイトカラー人材に関しては、従来と変わらず人手不足に悩まされ続けることになるでしょう。

特に、もともと人材が集まりにくい中堅・中小企業では、こうした傾向がより顕著になると言われています。既にほとんどの中堅・中小企業が深刻な人手不足に悩まされており、若手の人材をなかなか獲得できないために、従業員の高齢化に歯止めが掛からないのが実情です。このまま高齢化した従業員が順々にリタイアしていき、若手人材を新たに獲得できなければ、最終的には現場で事業を担う人材がいなくなってしまいます。

事実、自社が提供する製品やサービスが市場で高く評価されているにも関わらず、その生産や提供に必要な人手を確保できないために、なかなか業績を伸ばせずにいる企業も少なくありません。中には、業績が好調であるにも関わらず、人手不足のために事業を回せなくなり、倒産にまで至ってしまうケースもあります。

また現場の従業員だけでなく、経営側においても人材不足の問題は深刻です。中小企業の中には、経営を引き継ぐ人材がいないために、せっかく事業が好調に推移しているにも関わらず、やむなく会社を畳まざるを得ないところもあるのです。こうした事業継承の問題は、昔から小さな商店や町工場では存在していたものの、現在ではある程度の規模を持つ中堅企業でも身近な課題になりつつあります。

東京商工リサーチの調査によると、人手不足による倒産件数は2018年度には前年比28.6%アップとなり、2013年の調査開始以来、最多を数えています。またその内訳を見ると、最も多い倒産原因は代表者や幹部役員の死亡、病気入院、引退などによる「後継者難」型は全体の67%を占め、前年比7.6%アップとなりました。次に多いのが、人手を確保できずに事業継続が困難になった「求人難」型で、前年よりも2.6倍と急増しています。

事業をスムーズに引き継ぐためには経営情報の可視化が不可欠

とはいえ、解決策がまったくないわけではありません。事業継承の問題を解決するための方法として最も理想的なのは、自社内で後継者を育成することでしょう。しかし人材不足によりそれがなかなか叶わない場合は、事業を他社に譲渡するのも選択肢の1つです。M&Aによる企業の売却というと、多くの方がネガティブなイメージを持つかもしれませんが、せっかく好調に推移している事業を「後継者がいない」という理由だけで畳むぐらいなら、事業拡大を望む他社に譲渡することで従業員の雇用や得意先との取引を継続させた方が理に適っていると言えます。

また、さまざまな企業で経営の経験を積んだ、いわゆる「プロ経営者」に一時的に会社の経営を任せ、その間に社内で後継者を育成するという方法もよくとられます。まずは社外から招へいしたプロ経営者に経営を引き継ぎ、経営の実務を継承してもらうとともに、社内で選抜した後継者候補をその補佐として付け、一定期間経営を学んでもらった後に、満を持して経営を引き継がせるというわけです。

これらの方法をとることで、後継者不足に悩む中堅・中小企業であっても事業を継続できる可能性が高まります。ただしこうした方法をとるためには、経営を他社やプロ経営者にスムーズに引き継ぐための“下地作り”が必要です。 より具体的にいえば、経営の実態をつまびらかにして、いい部分だけでなく悪い部分も含めて、経営の状態を事細かにオープンにする必要があります。これによって初めて、事業を引き継いだ会社やプロ経営者は、抜け漏れなくスムーズに経営を引き継ぐことができます。それに第一、経営の実態が隠蔽されていたり、経営者の頭の中にしか重要な情報が残されていないようでは、なかなか引き継ぎ手も見つかりません。



そのため、事業譲渡やプロ経営者の招へいなどを検討するのであれば、まずは経営の可視化に積極的に取り組む必要があります。たとえ非上場企業であっても、経営に関する情報を事細かにデータ化し、第三者に開示できる準備を整えておくべきでしょう。そのためには、財務経理や販売管理、人事などの基幹業務を普段からITシステム上で実行し、正確なデータが自動的にシステム上に蓄えられる仕組みの構築が不可欠です。

従業員の離職を防止には、IT活用による働く環境の改善がカギ

一方、現場の人材不足を解消する上でも、ITシステムの導入は事実上不可欠だと言えます。まずは人手による無駄な作業が行われていないかをチェックし、ITで自動化できるところはどんどんシステム化していく。これによって、従来より少ない人手で同じ量の業務をこなせるようになります。

またIT導入の過程において、業務の進め方を根本的に見直すチャンスも生まれてきます。多くの企業の業務現場では、長年に渡って続けられてきたものの、よくよく考えてみると「本当にこの業務は必要なのか?」「もっと効率的なやり方があるのではないか?」という業務が多かれ少なかれ存在しているものです。普段は忙しさにかまけて顧みる余裕がないものの、IT導入を機に、こうした業務の在り方を根本から見直すこともできるでしょう。

IT導入による業務効率化は、従業員にとって働きやすい環境を実現する上でも極めて有効です。単調なルーチン作業をコンピュータに任せ、人間は限られた時間を有効に使って、より創造的な仕事を行う。こうした「働き甲斐のある環境」を実現することで、現在社内にいる従業員の離職を防ぐこともできます。今後、新たな人材の確保がますます難しくなってくることを考えると、まずは今いる従業員の離職を防ぐ手立てを講じるのが先決です。ITの有効活用によって働く環境を改善することは、そのための第一歩だと言えるでしょう。

こうして現場で働く従業員にとって働きやすい環境が整備されれば、新たな人材を確保するためのアピールポイントにもなるでしょう。特に経理や人事といったバックオフィス業務では、IT導入による作業効率化や生産性アップの効果が高いため、まずはこうした領域から手を付けるのがお勧めです。先に挙げた「事業継承のための経営可視化」という意味においても、やはりこれらの業務領域のIT化が不可欠です。人手不足や後継者不足に悩む中堅・中小企業は、まずはバックオフィス業務における自社のIT活用の在り方を見直すところから始めてみてはいかがでしょうか。

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