間接材の調達・購買~軽視は禁物!間接材コストの削減策を考える

間接材への支出はコストであり、その削減は企業の利益創出に直結した重要施策です。ところが、利益確保にシビアな企業でも、なぜか間接材支出の削減/適正化に頓着しないところが散見されます。そこで本稿では、間接材支出を戦略的に削減することの大切さとその方法についてお話しします。

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間接材支出の削減は利益創出の早道

早速、本稿の主題である「間接材への支出をどう減らすか」についてお話ししたいのですが、その前に、「間接材支出の削減がどれほど大切か」について触れておきたいと考えます。というのも、直接材については徹底的にコストコントロールをかけようとする企業でも、間接材への支出に対しては“緩(ゆる)さ”を見せるケースが珍しくないからです。

もちろん、平均的には直接材に比べると間接材への支出は小さいです。ですから、支出抑制の手綱が緩みがちになります。とはいえ、間接材支出という費用(コスト)の削減は、利益創出に直結する取り組みです。実際、売上げを数%伸ばすよりも、間接材支出を数%削るほうが、利益が大きくなることが十分に起こりえるのです(図1)。

図1:売上げ・費用・利益との相関関係(シミュレーション)(単位:百万円/ Hackett調べ)

3%売上増の前提条件
・費用の内訳:70%変動費(原材料費、人件費、設備費等)/30%固定費
・変動費上昇率:3%の売上増(30億円)に呼応して変動費が3%増加
・費用:970億円+(970億円×変動費70%×変動費上昇率3%)=990億3,700万円
間接材支出3%削減の前提条件
・費用の50%が間接材対象支出
・費用:970億円-(970億円×50%×3%)=955億4,500万円



もっと単純化して言えば、仮に売上対利益率が5%の企業の場合、5万円の利益を出すのに100万円を売り上げなければなりません。その中で、もし間接材支出を1万円減らすことができれば、20万円の売上げを上積むとの同じ財務的効果が得られるわけです。

米国企業の間では、こうした効果を重くとらえ、2000年代に入ると多くが間接材支出の削減に戦略的に取り組み始めました。それに対して日本の場合、間接材支出に積極的でない企業のほうが多いと言えます。そうした姿勢が、日米企業の利益率の差になって現れているのかもしれません。

日本では少子高齢化・人口減少が世界でも例をみないペースで進行しており、それに伴い日本経済の絶対規模は停滞/縮小傾向をたどり、企業の人材不足も深刻化しています。それに伴い、企業が売上げを拡大し続ける難度は以前にも増して高まっています。そう考えれば、間接材支出を削減して財務上の健全性を保つことは、米国の企業よりも、むしろ日本の企業のほうに、より強く求められていると言えるのではないでしょうか。

間接材の“市場価格”を追い求めても…

では、間接材支出を削減するには、どうするのが適切なのでしょうか──。

まず、企業の調達・購買部門の方とお話をしていると、「(この間接材の)市場価格を知りたい」という声をよく耳にします。

これはつまり、何らかの間接材について、自社がサプライヤーに支払っている価格が『市場の標準的な価格と比べて割高なのかどうか』を把握し、割高であれば削減/適正化を図りたいというニーズです。

確かに、企業が調達・購買する間接材は文房具だけではなく(そう誤解される場合もありますが)、有形・無形の実に多岐にわたる商材が間接材に含まれます(表1)。その中には、価格(あるいは、料金)の妥当性がつかみにくいものも多く、その点で、調達・購買部門の方が「市場価格」を知りたいと考えるのは当然のことかもしれません。

表1:間接材に類する主な商材

ただし、間接材については“市場価格”なるものは実質的に存在しません。仮にあったとしても、それを追い求めることにさしたる意味はないと言えます。

例えば、商品の原材料のような直接材とは異なり、間接材は必要に応じてスポットで購入することが多く、購入する数量やタイミング(時期)が常に一定とは限らないはずです。そして、間接材の価格は、この数量や時期によってさまざまに変動します。

また、バイヤー(買い手)のブランド力やサプライヤーとの関係性によっても、間接材の価格は変化します。仮に、あるバイヤーA社(仮名)の知名度が非常に高く、その会社と取り引きすることがサプライヤーB社(仮名)の市場での信頼性/ブランド力のアップにつながるとしましょう。この場合、B社は特別な割引レートを設定して、A社と取り引きしようとするはずです。ですから、A社の購入価格が非常に安価だからといって、他の会社が、それと同じ価格でB社から同じ商材を調達できるとは限らないのです。

このように、間接材の価格は、購入の数量や時期、バイヤーのブランド力、さらにはサプライヤーの戦略的な意図など、さまざまな要因によって上下します。その中で、「市場価格(世の中標準の価格)」を見出そうとすることは有効な手段ではありません。

重要なのは現行の調達・購買支出を下げること

「市場価格が存在しないなら、支出削減の指標をどこに置くべきなのか」──。
上の記述から、このような疑問を抱いた方がいらっしゃるはずです。

この問いへの答えは、『そもそもなぜ間接材支出を削減しなければならないのか』を考えることで導き出せます。

本稿最初の節でお話ししたとおり、間接材支出の削減は、利益創出の有効な一手です。それは、自社の財務体質を強化する施策となりえ、削減施策の本来目的もそこに置くべきと言えます。

このように考えていくと、自社における間接材支出の削減と、「市場価格(実質的には存在しないに等しいですが)」や「他社の調達・購買価格」との間にさほど意味ある関係がないことがおわかりいただけると思います。

実際、何らかの間接材の調達・購買価格が、競合他社の調達・購買価格より安価だったとしても、それに満足して削減の一手を打たなければ、自社の財務状況は何も変わりません。つまり、間接材支出の削減を考えるうえで重要なのは、『自社が今、間接材にどれだけ支出しているか』であり、それを戦略性を以って引き下げ、財務体質を強化することが支出削減の本来意義と言えるのです。

支出削減のリーダーシップ

間接材支出の削減は、財務体質強化の施策であって、全社的な経営施策と言えます。ですから、企業の調達・購買部門が施策遂行で主導的な役割を果たすことが基本です。

先の表1で示したとおり、間接材の種類は多岐にわたり、それぞれの分野についての専門的な知識がないと、製品/サービスの良否や価格の妥当性を見定めるのが困難な場合が多くあります。そのため、専門性の高い間接材の調達・購買については、当該の間接材を活用する各事業部門が独自に行っていることがよくあります。

このような調達・購買の分散統治は、一見すると理にかなった体制に思えます。ただし、この体制が妨げとなって支出削減の取り組みがなかなか前に進まなくなることが珍しくありません。理由はいたってシンプルで、各事業部門が自分たちにとっての扱いやすさを優先させ、付き合いの長いサプライヤーや自分たちの業務を良く知るサプライヤーを(たとえ、その価格/料金が割高だと気づいていたとしても)なかなか他に変えようとしないためです。また、複数の事業部門が、同じような商材を複数のサプライヤーから購入していたり、同一サプライヤーを使用しているにも関わらず、それらを戦略的に統合できていなかったりする場合も多くあります。

このような壁を打ち破り、支出削減を全社的に推し進めていくうえでは、やはり調達・購買部門がリーダーシップを発揮し、物事を前に進めていくことが大切です。

こう言うと、「各領域での専門知識のない調達・購買部門が、どのようにして支出削減をリードすればいいのか」と思われるでしょう。ここで重要になるのが、“専門性”に対する考え方の切り替えなのです。

間接材支出を適正化する“専門性”とは

例えば、マーケティングにおける間接材の調達・購買について考えてみましょう。

この領域における商材への支出は、ほぼすべてが間接材支出です。調達・購買の対象となる間接材としては、メディアの広告枠や各種クリエイティブ、マーケティングコンサルティングサービス、市場調査サービスといった商材が考えられ、それらを提供するサプライヤーとしては広告代理店が位置づけられます。

こうしたマーケティング商材は、専門性の高い間接材の一つで、マーケティング部門の担当者でなければ、クリエイティブの良否を判定したり、広告枠を適切に選定したりすることは困難と言えます。また、自社の事業戦略やマーケティング戦略に沿って、どのような商材がいつ必要かを判断するのも、マーケティング部門の担当者でないと難しいはずです。それゆえに、マーケティング系の間接材調達・購買については、ほぼすべてがマーケティングの専門組織に委ねられているのが一般的です。

ただし、そうしたマーケティングの専門性と、調達・購買を適切に行い、支出を削減/適正化していくノウハウとは本質的に異なるものです。調達・購買に関する支出削減の方法は、ほぼすべての間接材に適用しうる汎用性の高い手法であり、それを身に付けていれば、例えば、マーケティングの専門知識のない調達・購買部門の担当者でも、マーケティングコストの削減/適正化を図っていくことが可能になるのです。

ならば、その方法とは、どのようなものなのでしょうか──。

その一つは、「アスクマーケット(市場に聞く)」と呼ばれる手法です。例えば、マーケティングにおける調達・購買を例にとれば、まずは、市場にどういった広告代理店が存在し、各社が、どのような顧客に対して、どんなサービスを提供していて、いかなる効果を出しているかを調べ上げます。それによって「市場に関する知識(マーケットインテリジェンス)」を高めたうえで、次に、サプライヤーの候補を「トップレイヤー」「既存サプライヤー」「先進的なニッチプレイヤー」といったかたちでグループ分けして、それぞれを自社案件獲得の競争環境の中に組み入れます。そして、マーケティング部門と協力しながら、自社の状況やニーズを伝えて競争させることで、これまでにない斬新な提案や価格を引き出すことが可能になるのです。

このような競争環境は、さまざまな市場で構築することが可能です。また、それと併せて商材ごとの適切な調達方法を決めておくことも大切です。

具体的には、ある商材についてはロングテールでの同一カテゴリーの包括的な調達契約(事務用品やIT消耗品など)を結んだり、あるいは、同一、ないし類似製品を統合した契約を結んだり、さらには、同一サプライヤーが複数カテゴリーにサービス提供している場合には、支出金額を統合した契約を結んだりといったかたちです。

このように調達方法を適正化し、適切なベンダーで構成された競争環境(市場)に対して提案を働きかけていけば、間接材の調達・購買の価格は自ずと下がっていきます。

言うまでもなく、このような手法を展開するためには、間接材に対するすべての支出を見える化していなければなりません。なぜなら、それが実現されていないと、どういった商材/サプライヤーに対して、どの事業部門が、どれだけの支出をしているかが見えてこないからです。それが見えなければ、商材ごとの適切な調達方法を見定めることは難しいと言えます。

実際、間接材支出の削減に積極的な米国企業は、すべての支出を効果的に見える化しており、そのための仕組みとして、SAP Aribaのような調達・購買のシステムを活用しています。例えば、支出の殆どが間接材である製薬業界では、グローバルトップ25社のうち17社が、SAP Aribaを使用しており、同じく間接材支出統制が重要な金融業界でも同様の傾向が見られています。

財務体質の強化は、大多数の企業にとって重要な経営課題であるはずです。間接材支出の削減は、その課題を解決するための有効な一手であり、そのための正しい方法を把握すれば、すべての間接材への適用が可能です。SAP Aribaによって全支出の見える化を図りながら、あるべきプロセスを導入し、間接材支出の削減にトライしてみてはいかがでしょうか。

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https://www.ariba.com/ja-jp

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