女性活躍の時代の本格到来を早めるために

今日は「女性活躍の時代」とされ、企業における女性のリーダーシップの重要性がメディアで報じられる頻度も増しています。しかし一方で、日本における女性の社会進出に対する世界的評価は低く、「男女格差のない国」としての評価で、日本は先進国中最下位にランクされています。そうした現状から抜け出すための方法について考えます。

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女性の活躍が日本成長のカギ

経済産業省は約5年前の2014年11月、「成長戦略としての女性活躍の推進」(*1)と銘を打った文書を公開しました。

その冊子名からも分かるとおり、これは女性の雇用促進が日本の経済成長にとっていかに重要かを説いた一冊です。その冊子の中で経産省は、米国のヒラリー・クリントン氏(元米国国務長官)が、2011年9月のAPEC(Asia Pacific Economic Cooperation/アジア太平洋経済協力)会議「女性と経済サミット」で演説した内容の一部をこう引用しています。

「日本の女性労働力率が男性並みに上昇すれば、(日本の)GDPは16%上昇する」

また、この冊子の中で経産省は、IMF(International Monetary Fund/国際通貨基金)のホワイトペーパー(*2)に記された以下の一節も引用しています。

「急激な高齢化による日本の潜在成長率の低下に歯止めをかけるには女性の就業促進がカギ」

この冊子公表からの約5年間、女性の雇用に対する日本政府の後押しや、少子高齢化による人材不足の深刻化、さらには人材のダイバーシティ(多様性)に対する理解の広がりなどを背景に、日本の雇用者に占める女性比率は上昇を続けました。その比率は2018年時点で44.1%に達し、クリントン氏の演説のあった2011年当時の比率より2.1ポイントアップしています(*3)。

“男女格差のない国”の順位で日本は世界100位以下

以上のように、雇用者に占める女性の比率は着実に高まっています。ただし、内閣府の冊子「ひとりひとりが幸せな社会のために」に掲出されているデータを見ると、上述した44.1%という比率にしても、フランスやドイツ、米国、イギリスなどに比べると3~4ポイントほど低い水準です(*4)。
さらに悪い数値なのが、管理職者に占める女性の割合です。上の内閣府の冊子によると、日本の場合、管理職者(管理的職業従事者)に占める女性の割合が10%台前半(2019年度調査)でしかなく、40%台の米国や30%台のフランス・イギリス・北欧諸国に比べて圧倒的に低いといいます。日本と同じ製造大国のドイツにしても、管理的職業従事者における女性の割合は日本の2倍強の29%を超えています。

日本の内閣府では、2020年までに、社会のあらゆる分野の「指導的地位に女性が占める割合」を、少なくとも「30%程度」とする目標を掲げています。ただし、現状を見ると、その達成は非常に困難と言わざるをえないようです。

こうした日本に対する世界の評価は低く、スイスの非営利財団「世界経済フォーラム」(ダボス会議)が発表した男女間格差を示す指数「ジェンダーギャップ指数」(*5)においても、2012年の日本の順位は142カ国中101位で2014年は104位。これはG7中最低のランクでした(参考:「成長戦略としての女性活躍の推進」)。しかも、その後も順位は下がり続け、2016年は144カ国中111位、翌2017年には144カ国中114位という結果に終わっています(参考:「ひとりひとりが幸せな社会のために」)。

女性の活躍する企業は利益率が高い

今日、世界の成長・有力企業の間では、人材のダイバーシティを受け入れ、それを成長・発展の原動力にすることが、組織戦略の常識と化しています。

ここで言うダイバーシティとは、もちろん女性の登用だけを意味するものではありません。性別を含めて、人種・文化・宗教の違いや同性愛などの性的嗜好の違い、さらには、身体的ハンデキャップの有無を乗り越えて、あらゆる才能を企業・組織の力に転換することをダイバーシティ(あるいは、「ダイバーシティ&インクルージョン」)と呼んでいます。

その取り組みは、職場におけるすべての偏見や不当な格差を一掃するという、企業の社会的使命を果たすための施策であると同時に、異なるバックグラウンドや感性を持った人材の協働・共創によって、組織の創造性や変化への適応力、イノベーティブなパワー、そして競争力を高いレベルで維持するための施策とされています。

企業が女性活躍の場を作ることは、そうしたダイバーシティ戦略の柱として先進国の企業の間で、かなり以前から遂行されてきました。ただし、日本企業の多くは、そうした各国の動きに大きく後れをとっているようです。

もちろん、“女性”であることだけを理由に昇給・昇格で優遇することは合理的ではなく、営利組織であるかぎり、企業は女性の活用・登用によって実施的な効果・メリットも追求しなければなりません。

ただし、女性の活用に積極的な企業ほど利益率が高いというデータはさまざまにあり、日本政府も、そうしたデータを適宜活用しながら、女性活用の有効性をしきりに唱えてきました。たとえば、前出の「成長戦略としての女性活躍の推進」にも、以下のような記述とともに、それを裏づけるデータが示されています。

・女性取締役のいる企業のほうが、いない企業よりも株式パフォーマンスが良い。
・勤続年数の男女格差が小さい企業のほうが利益率が高い。
・再雇用制度(結婚・出産等による定年前退職者の再雇用制度)がある企業はない企業より利益率が高い。
・女性管理職比率(女性管理職/全管理職)が高い企業は低い企業より利益率が高い。

こうした傾向がすべての企業に当てはまるとは言えませんが、女性の積極的な活用でメリットを得ている企業のほうが、不利益を被っている企業によりもはるかに多いということは間違いなさそうです。

人事情報の一元化で女性の活躍を支援する

以上のように、女性の活躍を企業として後押しすることは、先進国の企業の間ではすでに“常識的”な施策であり、それに力を注ぐか否かで、グローバルでの信用・信頼が大きく違ってくる可能性があります。加えて、女性のリーダーへの登用は、企業としての収益性を高める有効な一手となりえ、かつ、女性の活躍を支援する姿勢を明確に打ち出すことで、優秀な女性の人材を採用するチャンスを広げることにつながります。

周知のとおり、女性の活躍をバックアップするには、前出の「再雇用制度」をはじめ、育児・介護などと仕事との「両立支援」制度など、結婚・出産・育児・介護といったライフイベントによって影響を受けやすい女性が、無理なく会社で仕事が続けられる制度・環境を整える必要があります。

実際、内閣府の「ひとりひとりが幸せな社会のために」によると、第1子出産前に就業していた女性のうち、第1子出産後も就業を継続する女性は約5割といいます。この割合は旧来よりも高まっていますが、それでも、出産後に仕事を離れる女性が約5割もいるというのは、改善の余地があるポイントと言えます。また、介護・看護を理由に過去1年以内に離職した雇用者は2017年で10万人となっており、その7割を女性が占めている点も問題視されています。こうしたことから、女性活躍の支援に積極的な企業は、産休制度や両立支援制度の拡充に力を注いでいるのです。

また、制度・環境面の整備と併せて必要とされるのが、女性の働く状況についての収集・把握です。というのも、企業での女性の活躍を支援するうえでは、結婚・出産・育児・介護といったライフイベントの情報をつかみ、制度に沿ったサポートを適切に提供しなければならないからです。

また、女性の活躍を組織戦略として遂行していくうえでは、女性の採用状況や管理職者に占める女性の割合、残業時間などを常に把握しておき、経営戦略と照らし合わせながら、自社なりの計画/目標を立てることも必要とされるはずです。さらに、女性と男性のダイバーシティの効果を組織や経営の強化に活かすことを考えれば、男女を問わず、すべての従業員のスキル、バックグラウンド、能力、性格、過去の経験、実績をすべて収集し、一元管理して、いつでも公正な評価や比較検討ができる環境を整えておくことも大切です。

旧来型の人事システムでは、上述したような多種多様な情報を収集し、一元的に管理することが困難でした。それを可能にしたのが、「SAP SuccessFactors」のような、タレントマネジメントの仕組みを持った人事システムです。その意味で、SAP SuccessFactorsは、女性の活躍を下支えする人事システムと言え、男女格差のない組織を作り上げ、かつ、女性の力を企業の力に転換する作業を効率化する仕組みでもあるのです。


*1 経済産業省「成長戦略としての女性活躍の推進」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/kigyo100sen/practice/pdf/2014november.pdf
*2 IMF(International Montetary Fund)『Can Women Save Japan?』(Chad Steinberg and Masato Nakane/2012年)
https://www.imf.org/external/pubs/ft/wp/2012/wp12248.pdf
*3 厚生労働省『平成30年版働く女性の実情』
https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/josei-jitsujo/18.html
*4 内閣府(男女共同参画推進連絡会議)「ひとりひとりが幸せな社会のために」
http://www.gender.go.jp/kaigi/renkei/pamphlet/pdf/panphlet_all.pdf
*5 ジェンダーギャップ指数:世界経済フォーラムが独自に算定した指数。教育・経済・保健・政治の4分野のデータから構成された男女格差を測る指数で、「0」が「完全不平等」、「1」が完全平等を意味する。2017年の世界1位はアイスランドの「0.878」で、日本は「0.657」の114位。

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