企業ITの“2025年の崖”を跳び越える具体策 Part2

経済産業省が企業ITの「2025年の崖」に言及したレポートを2018年9月に発表してからおよそ1年が経過しようとしています。ただし、今日もなお、このテーマに関する話題は尽きません。今回は、この“崖”をどう跳び越えるかについて改めて考察します。

企業ITの“崖”を跳び越える具体策 Part1はコチラ

まずは、基幹業務の見直しから

前回の内容を踏まえて、レガシーシステム、あるいは部門ごと・業務ごとに個別最適のかたちで構築された業務システムのドラスティックな変革が急務であることがおわかりいただけるはずです。

では、具体的に何を、どうするのが適切なのでしょうか─。

まず、おすすめしたい取り組みが、会計・販売・在庫・生産管理など、いわゆる「基幹業務」と呼ばれる業務が、どのようなシステムによって支えられ、それらが自社の競争力の維持・向上にどれほど貢献しているのかを改めて点検することです。

基幹業務は、言うまでもなく、企業の事業運営に必要不可欠な業務です。ただし、それらの業務は、先に触れた“非競争領域”に類しており、それ単体の効率化が企業競争力の強化に直結しない場合が多くあります。

例えば、会計業務単体の効率性が事業の成否を左右するわけではなく、販売管理や生産管理の業務にしても、売れる商品を企画・開発できていなければ、それぞれの効率性を個別に上げたところでほとんど意味はありません。ところが、日本の場合、会計・販売・在庫・生産管理といった各業務を支えるシステムが、それぞれの担当部門の個別的な効率化ニーズに従って導入され、機能の追加や拡張が繰り返されてきました。また、扱う商材や商流が違うことから、事業部ごとに異なる販売管理システムを持つ例も多く見受けられます。さらに、業務の個別的なニーズが充足できるという理由から、レガシーシステムが使われ続けていることも多く、結果として、基幹業務システムを継承する人材が枯渇するという危機的な状況に陥っているわけです。

このようにして引き起こされてきた基幹業務ごと・部門ごとのシステム/データの分断は、ITシステムの維持・運用管理コストを高止まりさせるだけではなく、ビジネスの状況を見えづらくし、経営上の意思決定や現場での判断を鈍らせるという問題も引き起こします。

簡単な例を挙げれば、どの商品がいま、いくつ売れていて、どの程度の収益につながっているのかがリアルタイムに把握できないと、経営層は、自社のビジネスの現状が分からず、的確でスピーディな意思決定を下すことはできません。これは、市場の変化が激しく、何事も計画通りに進まなくなりつつある今日においては深刻な問題です。

また、例えば、製造企業の販売部門が、製品の日々の生産状況について正確につかむことができていなければ、急な注文を大量に受けたときに、その納期を顧客に即答することはできないはずです。同様に販売部門で自社商品の正確な原価を把握できていないと、何をいくらで売るのが適切かの戦略的な判断を下すこともできません。仮に、原価が正確に分かっていたとしても、他の事業部門が“どの顧客と、どれだけの取引を行っているか”が即時的に見えない場合、自社にとって、“いま、どの顧客との取引を重視すべきか”がわからず、特定顧客に対する商品の値付けで大きな判断ミスをしてしまう恐れがあります。

生産管理部門にしても、受注の状況がリアルタイムにとらえられなければ、生産計画の調整が難しくなるでしょう。

このような状況に陥るのを避けるために、米国をはじめとする先進各国の成長企業・有力企業がすでに済ませているのが、ERPパッケージによって、全社の基幹業務システムを統一し、レガシーシステムの近代化や各業務間でのデータ統合を図ることです。また、データ統合を実現するだけではなく、パッケージの標準機能を使って業務プロセスを標準化するという施策にも力を注いできました。

このようにして基幹業務全体へのERPの適用を進めることで、ビジネス状況のリアルタイムな可視化が実現されるほか、基幹業務システム全体がシンプル化/近代化され、システムの維持・運用管理コストを大きく引き下げることが可能になります。結果として、戦略性の高いIT施策に人的/金銭的なリソースを注ぎ込む余裕が生まれ、先進各国の多くの企業がDXに力を注ぎ、成果を上げ始めているというわけです。

崖をクラウドERPで跳び越える

かつて企業の間では、ITのソフトウェアを建物や衣料品と同じような感覚でとらえ、“既製品(既製のパッケージ製品)は安価だが低品質で、特注品(オーダーメイド品)は高価だが上質”という見方がときおり見受けられます。

ただし、これは誤解です。ソフトウェアは、フィジカルな生産物とは異なり、複製のためのコストがほぼ“ゼロ”という特性があります。しかも、クラウドサービスとしてソフトウェアを提供する場合、物流のコストをかけずに数億人、あるいは数十億人に対して均しく価値が届けられます。

それゆえに、個社のニーズに適合したオーダーメイド型(受託開発型)のソフトウェアよりも既製のパッケージのほうが、はるかに多くの資金や人的リソースを開発に投入することができ、機能性・品質の両面で優れ、かつ、強化・拡張のスピードも速いのが通常なのです。もちろん、特注品のほうが、細かな業務要件に対応できるかもしれません。しかし、そうした細かな業務要件を満たすことが、必ずしも、企業全体の競争力強化や収益の向上につながるとは限りません。また、ビジネス要件の変化によって、細かな業務要件自体が要件ではなくなり、相応の時間とコストをかけて開発した機能が、ほとんど使われずに、存在することすら忘れ去られることもよくあるのです。

こうした観点からも、先進各国の成長企業や有力企業のように、ERPパッケージによって基幹業務とそれを支えるシステムを変革することが、企業ITシステムの維持・運用管理コストを引き下げて、DXなどの戦略性の高い分野に多くの金銭的/人的リソースを投入するうえでも、ICT投資の効率性を米国などのIT先進国のレベルに近づけるためにも、そして、レガシーシステムを知る人材が枯渇し、業務を支えるシステムが破たんに近い状況に陥るのを避けるうえでも最も効果的な施策と言えます。

とりわけ、「SAP S/4HANA Cloud」のようなクラウドERPを導入し、クラウドERPが備えている業務プロセスに自社の業務をフィットさせ、カスタマイズ開発(アドオンモジュール開発)を必要最低限に抑えるのは有効で、これによりERPシステムの導入を4カ月から6カ月程度で完了させられる可能性があります。また、クラウドサービスですから、活用のために特別なハードウェア基盤(サーバ環境)を導入したり、運用管理したりする必要はなく、その分の手間とコストも不要になります。さらに、ソフトウェアのバージョンアップや機能拡張/強化もクラウド側で一括して行われるので、ユーザー企業がそれに煩わされることもなくなります。

これらの一連の効果によって、企業は基幹業務システムの保守・運用管理に振り向けてきた資金や人的リソースを劇的に減らすことが可能になります。これにより、多くの金銭的・人的リソースを戦略的な分野に振り向けられるようになるのです(図2)。


図2:SAP S/4HANA CloudによるITコスト圧縮のイメージ


世界の成長企業/有力企業は、SAP S/4HANA CloudなどのSAPのERPを活用し、次の発展・成長に向けた土台を固め、DXなどによる差異化の一手を打ち続けています。そうした世界の流れに追随するためにも、そして2025年の崖を跳び越えるためにも、SAP S/4HANA Cloudの採用を検討されてはいかがでしょうか。

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