間接材の購買・調達 SAP Ariba Networkの巨大さが示唆する“データ分断”の非効率

SAP Ariba Networkは世界最大級の企業間(B2B)取引のプラットフォームです。間接材のサプライヤーとバイヤーを相互につなぎ、取引を効率化するこのサービスの規模は巨大で、そのスケールの大きさからは、受発注のプロセスを連携させることの価値が見えてきます。

年間3兆ドルの理由

SAP Aribaの「SAP Ariba Network」は、世界190カ国/420万社*ものサプライヤーが参加し、年間約3兆米ドルの間接材商材の取引が行われている世界最大級のB2B(企業間)eコマースプラットフォームです(図1)。
*2019年6月現在の数字


図1:SAP Ariba Networkの概要


3兆米ドルと言えば、英国のGDPにも匹敵する規模です。それほど巨大なB2B市場がSAP Ariba Network上で形成されている理由はシンプルで、このネットワークが、間接材のバイヤーとサプライヤーの双方にメリットをもたらすからです。

なかでも大きなメリットの一つは、バイヤーとサプライヤーとの発注・受注のプロセスを効率的につなぐことができる点です。

例えば、SAP Ariba Networkを使いサプライヤーが作成した見積データは、SAP Aribaの調達・購買ソフトウェアを使うバイヤーと共有され、バイヤーはその見積データをそのまま用いて、発注書が生成できます。その発注書を受け取ったサプライヤーは、発注書のデータを用いて請求書が生成・発行できます。つまり、バイヤー側が承認した見積書のデータを基に、発注から請求に至るまでの処理がスムーズに流れるわけです。また、調達・購買にかかわるバイヤー内部のプロセス─つまりは、発注、検収、請求(受理)、支払処理に至るプロセスも、SAP Aribaの調達・購買システムによって統合化されおり、すべてのプロセスで同一のデータが共有されます。

加えて言えば、SAP Ariba Networkはグローバルなプラットフォームであるため、多言語(世界24言語)/多通貨(世界172通貨)に対応しています。そのため、バイヤーもサプライヤーも、海外の取引先とのやり取りがしやくなります。

こうしたSAP Aribaのネットワーク/システムを使った受発注プロセスの中では、プロセスごとにデータを入力し直すという非効率な作業は発生しません。結果として、人為的な入力ミスの発生確率も低くなり、ミスを回避するためのチェックの工数も少なくて済みます。さらに、SAP Ariba Networkでは、サプライヤーがバイヤーとのやり取りを円滑に行うための「サプライヤーポータル」が用意されています。このポータルを通じてサプライヤーは、受注の確認や出荷の通知、請求書の発行などの業務を一括して行うことが可能です。

データの分断が生む非効率

海外では、上述したようなSAP Aribaソリューションの利点をかねてから認識しており、それを活用することが、間接材調達・購買のデファクトスタンダートの一つとなっています。そして、多くの企業(バイヤー)が、自社と取引する全サプライヤーとのやり取りをSAP Ariba Networkに集中化させています。

一方、日本企業においては、全社の間接材調達・購買プロセスが標準化されておらず、間接材調達・購買のすべてのプロセスを単一のシステム、あるいはプラットフォームに集中化させていること自体が少ないと言えます。加えて、社内の部門・部署、あるいは拠点が、それぞれ独自の判断とスタイルでサプライヤーを選び、発注をかけ、検収を行い、請求書を受け取り、支払処理へとつなげていることもよくあります。さらに、発注・検収・請求受理・支払処理のプロセスがそれぞれ異なるシステムで行われているケースも珍しくありません。それゆえに、SAP Ariba NetworkのようなB2Bネットワークに全サプライヤーとのやり取りを集中化させているところも、海外に比べて圧倒的に少ないのが現状です。

このような状況が生む問題の一つは、バイヤーとサプライヤーとの取引(あるいは、やり取り)の非効率性です。実際、サプライヤーとバイヤーとの受発注プロセスが連携しておらず、かつ、バイヤー内部の調達・購買プロセス(発注・検収・請求受理・支払処理、など)が異なるシステムで行われている場合、見積・発注・検収・請求・支払といった各プロセス間でデータが分断され、上述したような「サプライヤーの見積データをそのまま用いて発注書を生成する」といった処理が行えません。言い換えれば、プロセスごとにデータを入力し直すという非効率な作業が発生するわけです。この非効率性によって、バイヤーとサプライヤー双方の“見えないコスト(=労務負担)”が膨らむことになり、かつ、人為的なデータ入力ミスをチェックする工数も高止まりしてしまいます。

また、調達・購買の全社統制をとるうえでは、発注・検収・請求の「3点照合」をかけることが重要になりますが、発注(書)、検収(の記録)、請求(書)のデータがバラバラに管理されていると、例えば、『請求データの元になる発注書がどこにあるかがわからない』『どの段階の発注書に基づいて請求書が作成されたのかが分からない』、あるいは『検収がいつ、誰によって行われたのかが分からない』『検収が行われたのかさえ、はっきりしない』という状況に陥り、それらの不明点を突き止めるのに相当の手間と時間を要します。こうした理由から、3点照合をスキップしてしまい、『経理は、請求書がくると支払う』という、本来的にすべきではない処理を常態化させている日本企業は少なくありません。もちろん、統制を重視し、相当の労力を費やして3点照合を実施している日本企業もあります。ただし、それも実のところ生産的な作業とは言えません。というのも、3点照合を実施すると、一般的には80~90%以上の確率で一致しているケースが多いからです(この数値は、業界や部門によって増減します)。

これに対して、SAP Aribaのシステムでは、3点照合の作業も自動で行われ、発注・検収・請求の数値にズレがないものに関しては、そのまま支払処理に回すといった仕組みが構築できます。こうした照合の自動化によって、数値にズレがあるものの確認にのみ注力できるようになり、不正調達・購買のリスクを下げられるという効果も手にできます。加えて言えば、SAP Aribaのシステムと、SAP Ariba Networkに間接材調達・購買にかかわるすべてのプロセスを集中化させてしまえば、経理上の手動処理を大幅に減らし、結果として監査の作業も効率化されます。

このように、SAP Ariba Networkを含む SAP Aribaのソリューションは、間接材の調達・購買を巡るあらゆる業務の効率化に有効です。実際、SAP Aribaのソリューションの採用によって、間接材調達・購買のプロセスが40%~60% 程度効率化されたという例も多くあります。

EDI的なB2Bネットワークを低コストで

B2B取引のネットワークという点では、SAP Ariba Networkは、従来からあるEDIと似たところがあります。実際にも、EDIを介してすべてのサプライヤーとつながることができていれば、SAP Ariba Networkを使う必要はないかもしれません。

ただし、EDIシステムは導入、保守・運用管理にコストがかかり、バイヤーがすべてのサプライヤーとつながることは現実問題として不可能と言えます。事実、直接材/間接材の調達・購買にEDIを採用している日本企業は多くありますが、コスト上の理由から、重要なサプライヤーとの取引だけにEDIを使い、それ以外の取引に関しては、サプライヤーごとに異なる方式を適用しているのが一般的です。

これに対して、SAP Ariba Networkは、クラウドを介してバイヤーとサプライヤーをセキュアにつなげますので、接続に特別なシステムは必要とされません。そのため、バイヤーが全サプライヤーとのやり取りを集中化させやすく、それが海外企業における調達・購買プロセスの標準化と効率化を加速させてきたと言えます。

世界の成長企業・有力企業の間では、AP AribaのシステムやSAP Ariba Networkのようなネットワークを使い、調達・購買のプロセスを単一のプラットフォームに集中化させるのは、すでに常識的な施策になっています。実際、Fortune 100社の94%、Fortune 500社の80%以上がSAP Ariba Networkを使っています。

間接材の支出は、企業の最終利益に直接ヒットするものであり、その適正化が経営基盤の安定化や競争力の維持・強化には欠かせません。そう考えれば、間接材調達・購買にかかわる非効率なプロセスをそのまま維持するというのは、やはり問題が多いと言えるでしょう。そろそろ、間接材調達・購買のシステムとプロセスの全体を見直す時期にさしかかっていると言えるのではないでしょうか。

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