Why Digital Matters?─デジタルが日本復活の切り札になる
日本企業の間で、デジタルトランスフォーメーションの取り組みが活発化しています。背景には、デジタルテクノロジーを過小評価し、国際競争力を失っていった過去の経緯があります。『なぜ、デジタルが重要なのか?』『なぜ、DXを急ぐ必要があるのか?』─。その理由は、日本の企業が、国際競争力を取り戻し、復活の道に踏み出すために必要な施策だからです。

世界2位から25位へ
“世界2位から25位へ”─。これが何の順位の変化であるかご存知でしょうか。これは、“日本国民一人あたりのGDP”の世界順位が、2000年から2017年にかけてどう変化したかを示すもので、デジタルの重要性を説く書籍『Why Digital Matters?』(発行:プレジデント社)で言及されているデータです。2位から25位になるというのは相当の転落ぶりですが、理由はとてもシンプルです。日本のGDPが低成長を続ける一方で、23の国々がGDPを着々と伸ばし、国民一人あたりのGDPで日本を抜き去っていったからです。
実際、『Why Digital Matters?』の記述によれば、主要先進7カ国(日本、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ、イギリス、米国)に限って見ても、2000年から2017年にかけての名目GDPの伸び率で日本はダントツの最下位といいます。例えば、伸び率2位の米国は名目GDPを2000年対2017年で1.89倍に膨らませ、5位のドイツも1.52倍に伸長させています。それに対して、日本の伸びはわずかに1.04倍。約20年の間、まったくといっていいほど名目GDPが伸びていないわけです。さらに言えば、日本の名目GDPは、1990年対2017年の伸び率も1.2倍と非常に低く、2倍~3倍強に名目GDPを伸長させている主要先進他国に大きく水を開けられています。
薄れていった強み
日本がこのような状況に陥った一因としては、企業の多くがデジタルテクノロジーによるビジネス革新の流れに乗り切れなかった点が挙げられます。例えば、過去20年の間に、インターネットやクラウド、スマートフォンが爆発的に普及し、IoT/ビッグデータの潮流が生まれ、AI(人工知能)の劇的な進化も起こりました。そうしたテクノロジー革新のうねりの中で、米国ではGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)やハイテクベンチャーが驚異的な成長を遂げ、中国でもハイテク産業が爆発的な経済発展を支えてきました。それに対して日本では、数々の革新テクノロジーの普及・発展がまるでかったかのように、労働生産性は一向に伸びず、ハイテク企業の飛躍もなく、GAFAのような存在が生まれてもこなかったのです。
このような状況を生んだ背景には、日本企業の多くが「現場力の高さ」や「現場で働く人の能力の高さ」を自社の強みとしてきたことがあります。
実際、日本の生産現場やサービス現場における人の力は他国の追随を許さず、それが、日本企業の国際競争力を長く支えてきました。ただし、そのことが、日本企業のデジタル化を大きく妨げてきたとも言えます。
例えば、日本の現場では、人の能力が高く、多少の問題に直面しても、人の頑張りによって、すべてを解決してしまうケースがよくありました。このようなことを続けていると、どうしてもデジタルテクノロジーを過小評価してしまい、テクノロジーによる業務の効率化や自動化に関心を寄せなくなります。結果として、多くの日本企業がデジタルテクノロジーの活用で後手に回り、先進テクノロジーを有効活用する他国企業に生産性の面で追い抜かれ、差を広げられる事態を招いてきたわけです。
また、現場重視・人依存でビジネスを展開していると、デジタルテクノロジーを導入するにしても、その目的が現場の局所的な課題解決に向かうようになり、「企業全体として、顧客にどのような付加価値を提供し、差異化の源泉にするか」といった点がなおざりにされます。その結果、日本企業では、部門・部署、あるいは拠点や業務ごとの効率化に軸足を置いた局所最適のシステムが増えていき、データの分断化が進行してしまいました。そのことも、経営や現場の判断や意思決定を鈍らせ、企業の国際競争力を低下させた一因と言えます。
かたや、欧米の企業は、現場で働く人の能力が日本ほどには高くなく、かなり早い時期から人の力ではなく、テクノロジー(あるいは、システム)の力で現場の生産性と業務品質を担保するという戦略を取ってきました。その中で、大手企業を中心にERPの導入がさかんとなり、2010年ごろまでには、大手企業のほぼ全てがERPの導入をすませて、全社レベルで業務の標準化と全体最適化、そして業務データの統合を完了させたのです。それが今日における欧米先進諸国の企業と、日本の企業との生産性の差となって現れ始めていると見ることができます。
いずれにせよ、市場の変化が少なく、先行きも見通しやすかった大量生産・大量消費の時代では、人の能力のみに頼った経営でも、ビジネスを回すことができ、人の力だけで競争に打ち勝つことができました。しかし、市場の変化が激しさを増す中で、顧客ニーズにスピーディに対応していくためには、人の力だけに頼った経営では無理が生じます。つまり、データやデジタルテクノロジーを有効に活用していかなければならないのです。しかも、少子高齢化・人口減少に歯止めのかからない日本では、人の力を維持すること自体が難しくなっています。そう考えれば、最新のデジタルテクノロジーを取り込み、生産性の向上に役立てていくことは急務と言えるのではないでしょうか。
デジタル時代の勝機は日本に
デジタルテクノロジーの有効活用は、生産性の向上に不可欠と言えますが、それだけが全てではありません。むしろ、最新のデジタルテクノロジーを既存事業に取り込み、収益増につなげたり、これまでにないビジネスモデルや付加価値を創出したりすること、言い換えれば、デジタルイノベーションを引き起こすことのほうが重要と言えます。こうした取り組みを称して、デジタルトランスフォーメーション(DX)と呼ばれますが、今日では、それに力を注ぐ日本企業が増え始めています。
ではなぜ、デジタルイノベーションが必要とされるのでしょうか─。
大きな理由の一つは、従来型の事業モデルの中で投入された製品は、それがいかに先進的で高品質、あるいは多機能であっても、いずれは価格競争/コスト競争の渦に巻き込まれることになるからです。
価格競争/コスト競争の渦に巻き込まれた瞬間から、日本企業は、自らの強みをフルに活かせなくなる可能性があります。そこで、最新のデジタルテクノロジーと自社が本来持つ強み(コアコンピタンス)をうまく組み合わせ、新しいビジネスモデルの下で、これまでにない付加価値や顧客体験を提供することが重要になるわけです。
こうしたデジタル時代の競争においては、デジタルテクノロジーの活用で後手に回ってきた日本企業は不利ではないかと思われがちです。
ところが、DXによって日本企業(特に、製造企業)の逆襲が始まり、世界での勝利者になる可能性が高いとも目されています。理由は、デジタル時代の新しい事業モデルにおいては、サイバー空間と物理空間にある“モノ”とを融合させる、あるいは連動させて、いかに良質な顧客体験を提供するか、あるいは、顧客が真に欲するモノゴトを提供できるかがカギとされ、ものづくりの能力の高い日本企業が有利とされているからです。つまり、新たなアイデアを支えるモノをかたちにしてしまう能力は、日本がどの国よりも優れており、その強みを活かせば、これからのデジタル時代で覇権を握れる可能性があるということです。
その可能性をいち早く現実のものとするためにも、DXに早期に着手することが大切と言えるでしょう。
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