再入門:人事システムとは?基本機能から「タレントマネジメントとの違い」まで

業務システムの中で、なかなか全体を理解しづらいもののうちの一つが、「人事システム」です。近年では「タレントマネジメントシステム」と呼ばれる仕組みも話題となり、人事システムの全体を把握することがさらに難しくなっています。そうした状況を踏まえながら、本稿では、人事システムについて一から確認します。

混乱のもと

「人事システム」とは、人事担当者の仕事を効率化するITシステムのことです。

このように言うと人事システムを理解するのは簡単そうに思えますが、人事担当者の仕事は多岐にわたります。そのため、人事システムに類する仕組みは多く、全体をとらえるのは意外と大変です。

しかも、近年では、「タレントマネジメントシステム」と呼ばれる人事のシステムが話題となり、「タレントマネジメントシステムと人事システムとの違いは何なのか」「そもそも、タレントマネジメントシステムは、人事システムなのか」など、多少の混乱も見受けられています。

以下では、次の項目に沿って、人事システムの基本的なところを確認します。

【1】人事システムとは?
【2】人事システムを構成するITシステムのトレンド
 A.労務管理システムの概略とトレンド
 B.勤怠管理システムの概略とトレンド
 C.給与計算システムの概略とトレンド
 D.管理システムの概略とトレンド
【3】人事システムとタレントマネジメントシステム
【4】給与計算も、タレントマネジメントも──SAP SuccessFactorsの機能


【1】人事システムとは?

本稿の冒頭でも触れたとおり、「人事システム」とは、人事担当者の仕事を効率化するITシステムです。ですので、人事システムの機能は、人事担当者の仕事にリンクしています。具体的には、以下の2つの業務を効率化するシステムはすべて人事システムの範疇に含まれます。

1.労務管理
2.人事管理

人事管理と労務管理

人事部門以外の方は、上記をご覧になり、「なんだ、たった2つの業務しかないのか」と思われるかもしれません。ただし、労務管理も、人事管理も、実に多様な業務の集合体です。しかも、それぞれが非常に手間のかかる仕事であるうえに、少しのミスや遅れが許されないようなクリティカルな業務ばかりです。

加えて、近年では、働き方改革や人材難の解消、従業員満足度の向上など、人事施策の成否が企業経営にもたらすインパクトが大きくなっています。ゆえに、人事部門の役割は重要性を増し、ITによる自動化・効率化が可能ところは、全てにおいて、より戦略的な業務にリソースを振り向ける必要性が高まっています。


【2】人事システムを構成するITシステムのトレンド

では、人事システムとは、どのようなITシステムによって構成されているのでしょうか。以下では、それを明確にしながら、人事システム全体のトレンドについて一挙にご紹介します。


A.労務管理システムの概略とトレンド

労務管理は、従業員の働く環境全般を管理する業務を指しています。その業務は、「就業規則作成・管理」「雇用契約管理」「福利厚生管理」「健康・衛生管理」「勤怠管理」「給与計算」などと、多岐にわたります。

このうち、「勤怠管理」「給与計算」の2つをサポートするシステムについては、説明の便宜上、のちにお話しするとして、まずはそれ以外の業務を支援するシステムのトレンドをまとめてご紹介します。

もっとも、勤怠管理と給与計算以外の労務管理システムについては、あまりお話しすべきことはないと言えます。というのも、これらの業務の中には、「就業規則」の作成・管理のように、そもそもITによる自動化・効率化が難しい業務が比較的多く含まれているからです。例えば、従業員の「健康・衛生管理」にしても、基本的にはシステム化の対象となるような業務ではないと言えます。

それでも、近年においては、入社手続きや雇用契約、年末調整などにかかわる書類の作成・申請を自動化/オンライン化するクラウドサービスが登場するなど、勤怠管理・給与計算以外の労務管理業務も、徐々に、システム化の動きが活発化し始めています。


B.勤怠管理システムの概略とトレンド

勤怠管理は、文字通り、従業員の勤怠を管理する業務のことです。従来から、人事部門にとってとても大切な業務でしたが、働き方改革関連法案の施行によって時間外労働の上限規制に法的な拘束力が生まれたことで、勤怠管理の重要性は以前にも増して高まっています。

この業務は、後述する給与計算と深く結びつくプロセスです。ただし、給与計算に比べるとITによる効率化・自動化が遅れ気味でした。

言うまでもなく、勤怠管理における効率化のカギは、従業員の日々の勤務記録をどう入力して、収集・集計するかです。実際、紙のタイムカードや出勤簿による勤怠管理を行っていると、人事担当者は、毎月の給与の締め日から支払いまでの間、タイムカード/出勤簿の回収と、データの抜け漏れ/ミスのチェック、勤務体系との照合、表計算ソフトなどへのデータの入力や入力ミスのチェック、データ集計、さらには、給与計算システムへのデータの投入などに忙殺されます。しかも、従業員の勤務時間の集計は、毎月の給与の計算と支払いに直結した業務です。そのため、集計にミスや遅れは許されず、ゆえに、担当者の精神的な重圧も大きくなります。

こうした理由から、ITをうまく活用し、従業員による勤務時間の記録から、その収集・集計までを自動化することが古くから求められてきました。

ところが、かつては、従業員の勤務状況の記録・収集の自動化方法を一つに絞るのはなかなか難しかったと言えます。というのも、同じ会社で働く人であっても業務内容によって勤務体系や働き方が大きく異なるからです。

ここで仮に、タイムカードへの打刻時間をデジタルデータとして記録・収集できるシステムを使うとしましょう。これによって、従業員の勤務記録を収集したり、集計したりするプロセスを大幅に効率化することが可能になります。

しかしながら、タイムカードの打刻端末が専用的で、オフィスにしか設置できないものである場合、外勤メインの営業担当者などは、出勤と退勤の記録を残すためにいちいちオフィスに出向かなければならず、直行も直帰もできないことになります。

また最近では、従業員が使うパソコンのオン・オフの状態から、勤務時間を自動的に割り出そうとする仕組みもあります。ただし、これも基本的には内勤がメインの担当者、あるいは在宅勤務で仕事を行うテレワーカーの勤怠記録を取るための仕組みで、モバイルワーカーの働き方にはフィットしないものと言えます。

そうした中で、近年では、パソコンやスマートフォンを出退勤時間の打刻用端末として機能させ、従業員の勤務時間をクラウド上に集めて、自動集計する勤怠管理サービス(SaaS:Software as a Service)が人気を集めているようです。この種のサービスを活用することで、外勤メインの営業担当者のようなモバイルワーカーが、外手中に出退勤の打刻が可能になります。


C.給与計算システムの概略とトレンド

先に触れたとおり、給与計算は早くからシステム化が進められてきた労務管理業務です。というのも、給与計算は単純な事務作業に見えながら、非常に複雑で煩雑、そして手間を要する作業だからです。それでも、給与計算は、事業の運営上、なくてはならないクリティカルな業務であることから、人事部門向けのアプリケーションパッケージも給与計算の機能を中心にしたものが多く、「人事システム=人事・給与システム」というイメージも長く定着してきたと言えます。

いずれにせよ、従業員各人に対する給与支給額は、基本給だけでなく残業代や各種手当などにより毎月大きく変動します。また、社会保険料や雇用保険料、所得税、住民税などを控除し、社会保険事務所や税務署などに納めなくてはなりません。つまり、給与の支給額・控除額を計算すると同時に、国に納める正しい税額や保険料額も法律に準拠し計算しなければならないわけです。加えて、従業員の結婚や出産、住居移転など身上変更や資格取得による資格手当の追加などのイベントがあれば、それにあわせて各種手当や社会保険、税金の金額も変更しなければなりません。さらに、例月の給与に加えて夏季と冬季の賞与(ボーナス)、春には大量の人事異動や組織の統廃合、秋には社会保険算定業務、そして年末には一年の給与総決算である年末調整が控えています。

給与計算システムは、このような手間のかかる作業を効率化するための仕組みです。ただし、給与計算用のアプリケーションソフトを購入して、社内のシステム環境(オンプレミス環境)に導入して使う場合、数年ごとにシステムを更改する必要があります。また、労働基準法などの法改正が行われた場合も、それに合わせた各種のシステム改修が必須となります。

給与計算を巡るこうした手間を低減する一手として、今日では、給与計算の機能を提供する人事・給与システムをクラウドで動かすケースが増えています。クラウドにシステムを載せれば、ハードやサーバのお守りからお客様は解放されます。

ただし、多くの場合、人事・給与システムのアプリケーションソフトを提供するベンダーと、そのソフトを稼働させるためのクラウド基盤(クラウドプラットフォーム)を提供するベンダー(AmazonやMicrosoft、など)は異なっています。つまり、多くの人事・給与のクラウドサービスは、従来どおりのアプリケーションソフトを、他ベンダーが運用管理するクラウドプラットフォーム(PaaS:Platform as a Service)を使って提供しているにすぎないということです。

それに対して、SAPのフルクラウド型人事ソリューション「SAP SuccessFactors」は、アプリケーションソフトとプラットフォームの双方を、SAPという単一のベンダーがクラウドとして提供しています。それができているのは、実のところ、日本では唯一、SAP SuccessFactorsだけです(SAP SuccessFactorsの機能概要は後述します)。


D.人事管理システムの概略とトレンド

人事管理とは、人事情報の管理や採用、従業員教育にかかわる業務全般を指しています。その主な業務内容は以下のとおりです。

1.従業員の基本情報(氏名、生年月日、性別、国籍、入社年次、など)の管理
2.所属・職位情報の管理
3.報酬(給与)の管理
4.昇給・昇格情報の管理
5.業績評価(人事評価考課)の管理
6.採用管理(採用計画の立案/遂行)
7.従業員教育(社員研修などの遂行管理)

人事管理システムは、こうした業務を支援するためのシステムです。ただし、単一のシステムでこれらの業務すべてをサポートする仕組みはそう多くなく、例えば、業績評価の管理については、人事部門がExcelなどで作成した人事表考課票のフォームを使って各部門・各部署のリーダーが部下と面談して考課票を作成し、人事部門に提出、それを人事部門が管理するといったスタイルが比較的多く見られてきました。

このような管理のスタイルをとると、従業員各人の業績評価データが個別のファイルとして管理されることになります。そのため、従業員数が多くなると管理が大変になり、業績評価データの有効活用も図りにくくなります。具体的には、従業員各人の評価データを俯瞰してとらえ、部門・部署によって従業員評価に偏りや不公正さがないか、さらには、特定の評価項目について高いスコアを出している従業員は誰なのか、といった分析/活用が非常に実現しにくくなるということです(もしそうした、分析/活用を行いたい場合には、すべての従業員の業績評価を一つにまとめた一覧表などを手作業で作る必要があります)。こうした問題を解決するITソリューションとして、最近では業績評価管理に特化したクラウドサービスが登場し、業績評価をそのサービスを使いながら行い、各人の評価結果をデータとして一元的に管理しようという動きも見られ始めています。

同様に、採用管理の業務についても、業務特化型のクラウドサービスが登場し、利用企業の裾野を広げつつあります。

採用管理に特化したシステムとは、人材募集応募者の情報を一元的に管理しながら、人事担当者による採用活動をバックアップする仕組みです。選考状況の管理や面接日時の調整、面接後のフィードバックの管理といった機能を提供しています。


【3】人事システムとタレントマネジメントシステム

以上、人事システムについて見てきましたが、その中で、まだご説明していない重要な人事システムが一つあります。それは、「タレントマネジメントシステム」です。

▼タレントマネジメントシステムについては、下記コラムも併せて参照▼
一から理解!タレントマネジメントとは?

タレントマネジメントシステムは、文字通り、「タレントマネジメント」と呼ばれる、人材(=タレント)の管理・活用の手法を実践するためのシステムです。能力、スキル、キャリア、業績など、人材(=従業員)に関するあらゆる情報を一元的に管理して、可視化し、適材適所の人材配置や人材教育の最適化に活かすことを目的にしています。

タレントマネジメントとは、「タレント(=才能を持つ人材、あるいは人の才能)」の「発掘」「育成」「有効活用」を意味する言葉です。タレントマネジメントシステムは、この手法を実践するためのシステムですので、人材情報を集め、一元的に管理するためだけの仕組みではありません。収集した人材情報を基に、才能ある人材の発掘、人材育成プランの策定から遂行、評価サイクルの効率化など、「適材適所の人材活用支援を提供できるか」ということになります。

また、タレントマネジメントの業務には、先に触れた「人事管理」の業務がすべて包含されます。その意味で、タレントマネジメントシステムは、人事管理システムの発展形とも言え、人事管理の業務を総合的に管理し、企業戦略に基づいて人事業務を実行回していくための仕組みと見なすこともできるでしょう。

なお、現在、「人事システムとタレントマネジメントシステムの違いとは何か」について疑問を持たれている方もおられますが、以上のとおり、タレントマネジメントシステムには、基本的に、人事システムにおける労務管理系の事務処理(例えば、勤怠管理や給与計算、など)を効率化する機能は含まれていません。つまり、タレントマネジメントシステムは、人事部門の事務処理負担を軽くする仕組みではなく、データによって人事戦略上の意思決定の適格性とスピードを増す情報システムであるということです。



【4】給与計算も、タレントマネジメントも──SAP SuccessFactorsの機能

人事部門にとっては、給与計算などの労務管理上の事務処理はミッションクリティカルな業務です。その一方で、タレントマネジメントの実践によって従業員の能力を最大限に活用することも、少子高齢化などの影響で人材難が続く昨今では重要と言えます。

そのため現在は、タレントマネジメントの機能を含む統合型の人事システムへのニーズが高まっていると言えます。そして、そうしたシステムの代表的な一つと言えるのが、SAP SuccessFactorsです。

SAP SuccessFactorsは、タレントマネジメントのシステムとして広く知られるクラウドサービスですが、その機能モジュールの一つである「SAP SuccessFactors Employee Central Payroll」には、過去25年以上にわたって日本企業の給与計算業務をサポートしてきたSAPのノウハウが組み込まれています。SAP SuccessFactorsで管理された人材情報をベースに、給与計算を自動化する機能を持ち、日本の各種法令/制度への対応も自動化されます。

しかも、SAP SuccessFactorsでは、社員一人一人にも自身のマイページが与えられ、社員は各種申請(引っ越し、結婚、銀行口座の変更など)をセルフサービスで行うことができるようになります。ワークフロー機能と連動しているため、社員が申請したデータは即座に人事部担当者に送られ、担当者が承認するとそれが新しいデータとして書き換わります。ご興味のある方は、ぜひ、下記のページでSAP SuccessFactorsの機能を確認してください。

▼SAP SuccessFactorsの機能を確認する▼
SAP SuccessFactors

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