中堅企業が抱く「SAPにまつわる6つの誤解」は本当か 担当者に真相を聞いた
「SAPのERPをうちの規模で入れるのは無理でしょ」。そう思うのは古いSAPのイメージのせいだ。今は全く「別物」だが多くの企業がその真実を知らずにいる。何が誤解で何が真実か、まん延する6つの誤解にSAPは全てノーと言う。

SAPはもはや“重い”システムではない
「BPRとERPによる経営改革」「大規模なカスタマイズと専門部隊による大規模運用」──かつてのSAPのERP製品にはそんな重厚長大なイメージがあった。しかし近年のSAP製品を見ると、そういう印象は感じない。いったいSAPは何が変わったのだろうか。SAPジャパンに話を聞くと、「企業を変革するという根幹は変わっていません」と答える。「変わったのは、変革の手段です。ところがそのことが正しく伝わらず、時に誤解を生んでいるのです」とコメントする。SAPは製品のコンセプトやビジョンを示す戦略として「Intelligent Enterprise」(インテリジェントエンタープライズ)を掲げている。これは「従業員がより価値の高い成果を創出できるよう、機械学習などのAI、IoT(モノのインターネット)、アナリティクスなどのテクノロジーを活用する企業の在り方」を指す。
「ERPを中核に置き、AIやIoTといった周辺のデジタル技術を活用するデジタルコアが今のビジネスには重要だと考えます。ERPをコアとして据えることで、デジタル変革により取り組みやすくなります」とSAPの担当者は説明する。

「高い、面倒、使いにくい」から「速い、簡単、使いやすい」へ
そうは言っても過去のSAPに対するイメージが拭い切れず、いまだに“誤解”しているユーザーも少なくない。具体的には「高い、面倒、使いにくい」といったイメージだ。ここからは、代表的な誤解を6つに整理し、一つ一つ解いていきたい。誤解(1)SAPはラージエンタープライズ向け 人手の足りない中堅規模には向かない
かつてのSAP製品は、自社業務に適応させるためにアドオンを開発してカスタマイズすることが一般的だった。アドオン開発にはABAP(Advanced Business Application Programming)と呼ばれるCOBOL由来の独自言語を用いるために、専門知識が求められる。運用においても「SAP BASIS」(SAP NetWeaver)と呼ばれるミドルウェアの知識を持った専門部隊が必要であった。担当者が10人にも満たないようなIT部門ではSAP製品の導入は難しいとされていた。しかし現在はクラウド型ERPをラインアップに加え、ソリューションと運用を一体で提供している。かつてのように、SAP BASISの知見を持った人材や専門部隊も必要ない。「SAP人材がいなければ導入できない」というのは誤りである。
誤解(2)クラウド型ERPは柔軟性に乏しい
一般に、クラウド型ERPは標準化された画一的な機能を多数の企業でリソースを共有して利用する。そのためか、「柔軟性が乏しい」「カスタマイズ性がない」と感じるユーザーもいるだろう。SAPのクラウド型ERPスイート「SAP S/4HANA Cloud」は、ユーザーに2種類の選択肢を提供しており、ニーズに応じて使い分けられる。標準化、短期導入を求めるのであればSAP S/4HANA Cloud。カスタマイズやアドオン開発など柔軟性を求めるのであれば「SAP S/4HANA Cloud, single tenant edition」(以降、SAP S/4HANA Cloud,STE)だ。SAP S/4HANA Cloud,STEは、ユーザーごとのシングルテナントで利用できるため、柔軟性も高い。さらに、SAP S/4HANA CloudとSAP S/4HANA Cloud,STEを組み合わせた「二層ERP」も可能だ。

「SAPはクローズドなシステム」「AIの活用は別契約」は過去の話
最近は、基幹システムも他システムと“つながる”ことが求められる。SAPはクローズドシステムだと考えられがちだが、実はそうではない。誤解(3)SAPは独自プラットフォームに閉じたシステム 他システムとの連携性が低い
「SAP製品はSAP独自のプラットフォームでなければ運用できないのでは?」という疑問も聞くが、SAP S/4HANA Cloudは、「AWS」(Amazon Web Services)や「Microsoft Azure」「Google Cloud Platform」(GCP)といった主要なIaaSをインフラとして選択可能だ。またSAPは「SAP API Business Hub」と呼ばれるAPIの総合カタログを提供している。公開されているAPIは約2000個に上り、その中から連携に必要なAPIを簡単に検索できる。サンドボックス環境でAPI呼び出しテストも可能だ。
誤解(4)SAP Leonardoを使うには追加費用が必要
システムに機能を追加して拡張する場合は、多くのケースで追加費用が発生する。中には、追加コストを避けるためにシステムを“塩漬け”状態で利用する企業もあるだろう。SAPはインテリジェントエンタープライズを推進するために、企業が既存のERPデータだけでなくIoT(モノのインターネット)データやAIを駆使したデータインテリジェンスなどのテクノロジーを利用するための手法や実装技術を体系化した「SAP Leonardo」を提供する。だが、ユーザーは「サービスの利用=追加コスト」というイメージを持っているため、SAP Leonardoを利用するには追加費用が必要だという誤解を抱く。しかし、現在のSAP製品には標準でSAP Leonardoの技術が組み込まれて提供される。SAPは「SAP Leonardoの活用によるインテリジェントエンタープライズの実現」をうたっているが、それは決して大仰なものではない。SAP Leonardoはもっと身近で気軽に使えるものだ。
「クラウドでもそんなに安くならない」はプロダクトの特性ではない
「SAP製品は高い」「SAPは導入に時間がかかる」。数十億円規模のSAP導入事例を見ると、こうした思いを抱くIT担当者も少なくないはずだ。そうしたイメージは果たして本当か。誤解(5)「正直、SAPって高いですよね?」
高機能故に「SAP製品は高くつく」というイメージを持たれがちだ。だがSAP S/4HANA Cloudの登場によって、それは大きく変わった。導入コストを見ると「桁が1、2つ変わるほど」だ。SAP BASISの運用をSAPにアウトソースでき、運用のための専用部隊は必要ない。環境によっては、オンプレミスのSAP ERPをSAP S/4HANA Cloudに入れ替えるだけで、大幅なコストダウンを図れる。多くのユーザーは「オンプレミス型は大きなコストがかかるのは導入初期だけ」というイメージを持つが、実は導入後にもアップグレード対応やメンテナンス工数など見えないコストがかかり、運用コストも見えにくくなりがちだ。SAP S/4HANA Cloudは、ソリューションだけでなくアップグレード対応や機能拡張、メンテナンスなども含めオールインワンで提供されている。先々に必要なサポートも全て一体で提供している。

誤解(6)SAPの導入には長期計画が必要で、短期導入は難しい
SAP製品の導入には、相応の期間を要するというのはもはや過去の話だ。1990年代にERPが注目を集めてから既に30年近くの時間が流れている。この間に得られたノウハウがテンプレートやサービスに反映されている。そうした蓄積により、今ではグローバル企業が80拠点にわずか3カ月で導入したという実例もある。ビジネスのスピードが増す中、ERPの導入のために貴重な時間を長々と割くのはビジネスリスクだ。今のSAP製品は、短期導入、スモールスタートが基本なのだ。よくある6つの誤解から、SAPの現在位置を明らかにしてきた。SAPをかつてのイメージで捉えるのは大きな間違いだ。SAP製品は、柔軟性、連携性、拡張性を備え、「コストを抑えて、短期導入」を実現するソリューションに変貌している。もはや、超大手企業のためのソリューションでもない。誰でも簡単に導入できる身近なソリューションなのだ。
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中堅企業が抱く「SAPにまつわる 6 つの誤解」は本当か
※ 当記事は、アイティメディア/TechTargetの記事を許可を得て転載したものです。