SAP SuccessFactorsで築くグローバル人事のプラットフォーム

中国から日本への化学品の輸入を事業の柱とするハイケム株式会社では、SAPの「SAP SuccessFactors」を活用してグローバル人事プラットフォームを構築しました。その取り組みの内容を、2019年9月9日に開催されたSAP SuccessFactors VIP (Value & Innovation in Practice)セミナーにおける同社の講演内容に基づきながら、ご紹介します。同講演は、ハイケム管理本部 総務部の坂牧聡暢氏によるものです。

売上高1,000億を目指して

ハイケムは、化学品の専門商社として化学品・食品・農薬などの原材料やエレクトロニクス分野の原材料の輸出入/販売を手がける企業です。中国から日本への原材料輸入を事業の柱としながら、1998年の創設以来、売上高を右肩上がりで推移させ、設立から20年目に当たる2018年には連結で514億円(連結)を売り上げています。

「その売上高を1,000億円にするというのが当社の当面の目標です。それに向けて人事の仕組みをどう整えていくかが、管理部門にとっての大命題の一つと言えます」と、ハイケム 管理本部 総務部の坂牧 聡暢氏は話します。

人材の情報はアナログでバラバラだった

ハイケムでは世界合計で約500人の社員を擁し、うち東京本社の社員数は約150人。その74%が中国人で占められ、残りが日本人という人員構成になっています。

そうした社員の情報管理は従来、Excelファイルで行われていました。また、社員の目標管理も紙ベースで行われ、各部門での「後継者育成」も現場のマネジャーに一任されているといいます。さらに、社員の履歴についても管理されておらず、「社員各人の出身大学や専門分野、ビジネス上の知見・経験は、各人の頭の中にしかない状況でした」と坂牧氏は語り、こう続けます。

「要するに、従来の当社は、人事管理の基礎がまったくできていない状況だったということです。会社で最も重要な資源は人です。その人の情報管理がこのような状態のままでは、1,000億円企業を目指せるわけがありません。そこで、総務部門が中心となってプロジェクトチームを組み、人事管理のためのプラットフォーム(以下、人事プラットフォーム)を構築する取り組みに着手しました。それがSAP SuccessFactorsの導入につながったのです」

クラウド型&中国語対応がSAP SuccessFactors選定の決め手

プロジェクトチームが、人事プラットフォームの構築で解決を目指した課題は、以下の2点に集約できます。

  • 課題1:社員情報管理と目標管理の一元化
  • 課題2:グローバルに通用するプラットフォームの構築
これらの課題を設定したうえで、プロジェクトチームは、課題解決のためのITソリューションの選定に着手しました。その選定を行ううえでプロジェクトチームが重要な要件として掲げたのは、「課題解決のための機能がモジュールとして用意され、段階的な導入が図れること」と「中国に数多く点在するハイケムの拠点への展開が容易で、かつ、中国語に対応できること」です。

これらの要件に基づいて複数ベンダーのソリューションを比較検討した結果、クラウド(SaaS)型で、中国語を含む多言語に対応できるSAP SuccessFactorsが採用されました。

社員たちからの思わぬ抵抗

SAP SuccessFactorsを導入したプロジェクトチームは、SAP SuccessFactorsの適用範囲を社員情報管理と目標管理に定めてシステム構築を進めました。

「SAP SuccessFactorsの適用範囲には、後継者管理やキャリア開発、要員管理・要員分析なども含まれていましたが、プロジェクトチームが用意できる人的リソースには限りがあり、すべてを一挙に進めるのは困難でした。そこで、プラットフォーム構築の最初のステップとして、社員情報管理と目標管理の一元化を優先して進めたのです」(坂牧氏)。

当初の計画ではSAP SuccessFactorsでの社員情報の一元管理を2019年2月からスタートさせ、7月から目標管理を始動させる計画でした。ただし実際には、社員情報管理の始動が7月へと後ろ倒しになり、その影響から目標管理の始動も8月にズレ込んだといいます。

社員情報管理のスタートが遅れた最大の要因は、多くの中国人社員が自分の情報をSAP SuccessFactorsに入力するのを拒み、全社員情報の入力をプロジェクトチームだけで行う必要があったためです。

「このとき、改めて感じたのは日本と中国との国民性の違いです。日本人は会社から言われたことに対して、何でも素直に従う傾向がありますが、中国の人はそうではありません。自分にとってのメリットが見えない作業をするのは“非合理”と見なし、たとえ会社から言われたことでも拒む傾向が強くあります。言い換えれば、人事プラットフォームに自分の情報を入力するという仕事は、彼らにとって、本来業務ではないうえに、自分にとってのメリットも感じられない、拒むのが当たり前の作業だったということです」(坂牧氏)。

こうした中国の人の気質は、SAP SuccessFactorsを使った社員情報管理・目標管理の始動を社内向けにアナウンスし、説明会を催した際にも見受けられたといいます。

例えば、説明会の場では、中国人社員から「(社員情報管理や目的管理の一元化は)自分にとって何のメリットがあるのか」という質問が改めて投じられました。
「この質問に対しては正直にこう答えました。『現段階でメリットがあるのは、マネジャー層や人事管理の担当部門だけで、一般の社員にはメリットはありません』と。ただし、そのうえで、今後、人事プラットフォームの機能を拡充し、後継者管理やキャリア開発に役立てられるようになれば、一般の社員にもメリットがもたらされるようになるとの説明を加えました。それによって、社員たちから一定の理解は得られたと感じています」(坂牧氏)。

SAP SuccessFactors導入で留意すべきポイント

以上のような体験を踏まえながら、坂牧氏は、SAP SuccessFactors導入に当たって留意すべきポイントとして次のような点を挙げます。

  • ポイント1:既存データの精度を可能な限り高めておく
  • ポイント2:目標管理のフローを無理に全てシステム化しようとしない
  • ポイント3:プロジェクトチームの要員確保とスケジュールには余裕を持たせる
このうち「ポイント1」について、坂牧氏は次のような説明を加えます。
「社員情報のSAP SuccessFactorsへの入力(アップロード)に手間取ったのは、社員たちがそれを拒んだことだけが理由ではありません。Excelで管理していた社員情報の精度が悪かったことも要因の一つです。ですから、SAP SuccessFactorsのようなプラットフォームを使い、あらゆる人材情報の一元管理を目指すのであれば、既存データの精度を可能な限り高めておくことをお勧めします」

また、「ポイント2」は、自社における目標管理フローの中で、SAP SuccessFactorsによるシステム化が難しいと感じた部分があれば、その部分を切り出してオフラインのままにしておくほうが効率的であるという意味です。
「例えば、部署ごとの社員評価を終えたのち、人事評価の全社的な公正性を担保するために評価調整を行うことがあるはずです。SAP SuccessFactorsを使うことで、そのフローもシステム化できます。ただし、当社の場合、そうすることをあえて避け、評価調整については従来どおりオフラインで行い、その結果だけをSAP SuccessFactorsに反映させるという手段を選びました。理由は、当社の評価調整フローが非常に特殊で、それをSAP SuccessFactorsでシステム化するのは至難と判断したからです。そう判断し、全フローのシステム化を避けたことで、結果的には、SAP SuccessFactorsと自社のフローの無理のない連携が実現されたと感じています」(坂牧氏)。

さらに、最後の「ポイント③」について、坂牧氏は以下のように話します。
「SAP SuccessFactorsは導入・活用の敷居が低いITソリューションですが、それでも管理部門の担当者が使い方をマスターするまでには相応の時間は必要です。また、データをそろえるのにも想定以上の工数と時間がかかる場合も多くあります。ですので、SAP SuccessFactorsを使った人事プラットフォーム構築に携わる要員や構築スケジュールについては、余裕を持たせることが大切です。その大切さは、実際の導入を経験してみて最も痛切に感じた点と言えるかもしれません」

以上のとおり、ハイケムではさまざまな課題を乗り越えながら、人事プラットフォーム構築の最初のステップである社員情報管理と目標管理の一元化を、SAP SuccessFactorsを使って実現しました。これにより、人事情報管理の効率化や目標管理のペーパーレス化といったメリットが創出されたほか、業務現場のマネジャー層は、部下の情報と業績を一括してとらえることが可能になりました。

「私たちの人事プラットフォームの構築は、まだ道半ばの状態です。それでも、人事管理の基礎は徐々に築かれつつあるとの手応えを感じています。人事の担当部門はよく“コストセンター”と見なされますが、私は、人事部門が本来の役割である人材戦略を担えるようになれば、プロフィットセンターとして機能するようになると確信しています。その転換を加速させ、1,000億円企業にふさわしい人事管理を実現するために、SAP SuccessFactorsによる人事プラットフォームの強化にこれからも力を注ぐつもりです」(坂牧氏)。

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