「標準化偏差値」で決まる企業のアジリティと成長力
基幹業務のプロセスとして世界標準をそのまま取り入れ、企業成長・発展のための土台を固める──。この合理的で無駄のない経営戦略を遂行するために、SAPのERPを導入し、相応の成果を手にする日本の中堅・中小企業が増えています。そうしたお客様の成功に基づくかたちで、企業としてのアジリティと成長力、そして信用力を計測する「標準化偏差値」という考え方をご紹介したいと思います。この数値を高めることで、自社が本来持つ強みを増幅させ、市場での競争力をさらに増していくことが可能です。

企業の「標準化偏差値」とは?
在庫削減率50%を実現、生産計画策定サイクルを毎週1回から毎日へ、
MRP(資材所要計算)処理時間を20分の1に圧縮──。
これらの効果は、産業用機械・構成部品の製造・販売を手がける日本の企業が、SAPのERPパッケージによる基幹業務システムの全面刷新によって手にした効果の一部です。
同社では組織改革の一環として、業務システムのグローバル化対応や変化に迅速に対応する生産体制の確立などを目指し、SAPのERPパッケージの導入に踏み切り、上記のような成果を上げました。
同社は、従業員数約200名で売上高およそ100億円と、規模的にそれほど大きな会社ではなく、IT専任の人員を数多く擁しているわけではありません。ところが、プロジェクトの始動からおよそ半年で、財務・会計、販売・在庫管理、資材調達、生産管理・設備管理など、自社の事業運営を支える基幹業務の全てをSAPのERPパッケージによって刷新し、業務プロセスの最適化を成し遂げています。
その成功をもたらした最大の要因と言えるのが、SAPのERPパッケージの機能に自社の業務をフィットさせ、それによって業務の標準化を図ったことです。つまり、ベストプラクティスをベースにしたERPのテンプレートをそのまま用いて、短期間で新しいシステムを構築し、そのシステムに基づくかたちで自社の業務プロセスを改変したということです。
ERPパッケージに自社の業務をフィットさせるという手法は、「フィットツースタンダード」と呼ばれますが、ここ数年来、日本の中堅・中小企業の間ではSAPのERPパッケージを使ってこの手法を実践し、上記の企業のような成功を手にしているところが増えています。
これを言い換えれば、日本の中堅・中小企業には、世界標準の業務プロセスとテクノロジーに自社をすみやかに適合させ、成果を上げられる能力、ないしは俊敏性(アジリティ)を有しているところが多くあるということです。こうした企業組織の力を、「標準化偏差値」として数値化することで、企業の成長力・発展力を測る新たな指標とすることができるでしょう。
なぜ業務の標準化が必要なのか──標準化における5つの価値
そもそもなぜ業務の標準化が必要なのか、それが企業にどのような価値をもたらすのかについて改めて確認しておきたいと考えます。標準化の価値(1):属人性の排除
財務会計や人事、販売・在庫管理、生産管理といった業務(いわゆる基幹業務)は、事業の日々の運営に不可欠な作業です。ですので、常に一定のパフォーマンスで確実に処理されることが前提となります。業務の属人化とは、そうした基幹業務が特定の担当者のスキルや知見によって支えられ、その人が退職・異動・病気、あるいは災害などの理由によって不在になる、ないしは長期間の離脱を余技なくされたとたんに、会社の事業運営が滞るということを意味します。言うまでもなく、そのようなことはあってはなりません。
しかも、かつての日本では終身雇用を前提にした組織の中で、その会社にしかない特殊で相応のスキルを要する業務を、先人から後人へと、長いときをかけて受け継ぐことできました。しかし今日では、終身雇用のスキームは保たれておらず、人材の流動性が高まっています。ゆえに、特定の会社でしか通用しないような特殊な業務を人から人へと連綿と受け継いでいくことが非常に難しくなっています。
もちろん、その特殊な業務が、会社の中核の強み(コアコンピテンス)、あるいは競争力に直結するものであれば、あらゆる困難に直面しても守っていかなければなりません。ただし、上述したような基幹業務は、事業の運営に不可欠ではあるものの、企業のコアコンピタンスや競争力に直結するものではない場合がほとんどです。
その意味でも、基幹業務のプロセスは、テクノロジーの力を借りながら可能な限りシンプル化し、属人性を排除すること──つまりは、「誰でも担当者の代替として機能できるような仕事」にすることが理想と言えるのです。
標準化の価値(2):リソース配分とパフォーマンスの適正化
会社の中で業務のプロセスが標準化されていないと、当該業務に何人の担当者を振り向けて、どの程度の時間をその処理にかけるのが適正か、見えなくなります。実際、同じ業務をこなす担当者の数が、事業部ごと、拠点ごとに異なっていても、業務の進め方がそれぞれ違うのであれば、業務遂行のための適正な人数や処理時間の基準を設定することはできません。それに対して、業務の全体を最適化するという観点から標準化を行うことで、業務ごとに何人の担当者を配置し、どの程度の時間をかけて仕事をこなすのが適切か、基準が定められるようになります。その基準があれば、リソース配分の適正化とコントロールを行うことが可能になるのです。
標準化の価値(3):成功企業に業務を合わせる合理性
実のところ業務の標準化には、2つの意味があります。1つは、バラバラだった業務の進め方を全社的に一本化するということです。もう1つは、業務の進め方を「世界の成長企業・成功企業」のやり方──つまりは、世界標準に合わせてしまうという意味です。SAPのERPパッケージが世界数十万社の企業に導入され、ERPシステムの市場で他を圧倒する地位を築いてきたのは、この後者の標準化を実現するITソリューションとして優れた製品であるからです。具体的には、各業界で世界有数の実績を上げる企業の業務プロセスが、ベストプラクティスのかたちでテンプレート化されており、ユーザー企業はそのテンプレートを用いて自社の業務の標準化が図れます。そのことが、SAPのERPパッケージを今日の地位に押し上げてきた原動力の一つになっています。
自社の基幹業務を世界標準に合わせてしまう合理性は、とりたてて説明するまでもないかもしれません。
先に触れたとおり、基幹業務は、企業のコアコンピタンスや競争力強化に直結したものではありません。ですので、自社固有の業務の進め方に固執する理由はほとんどないと言えますが、一方で標準化に当たっては、パフォーマンスや品質を業界最高レベルに持っていくにはどうすべきかに始まり、業務のパフォーマンス・品質を管理するためのポイントをどこに置くのが適切か、どのデータに基づいてパフォーマンス・品質の良否を判定するのか、業務のコンプライアンスや信頼性をどのように担保するのが適切かなど、検討すべき課題が多くあります。そうした課題を一つ一つ、自社内で検討するのでは時間がかかり過ぎ、現実的とは言えません。そこで、世界標準に自社の業務を合わせてしまうという選択肢が、最も合理的な手段として浮上してくるわけです。
このとき、世界標準が自社固有の業務ニーズにフィットしないという理由から、パッケージの機能を自社の業務に適合させるためのカスタマイズモジュール(アドオンモジュール)を数多く開発しようとする企業もありますが、これではERPパッケージを使うそもそもの意義が失われるばかりか、システムを立ち上げるまでの工数が増え、工期が長期化してその分のコストも膨らみます。また、組織の変更や業務担当者の配置転換などによって、開発したモジュールがすぐに使われなくこともよくあります。
世界標準に自社の業務がフィットしないのであれば、自社の業務の進め方のほうに間違いがある──。ERPパッケージによって世界標準を取り込む際には、それくらいの割り切りが必要です。
標準化の価値(4):世界標準の最新テクノロジーをすばやく取り込める
自社の業務を世界標準に合わせるという標準化には、テクノロジーの進化・発展をすばやく取り込み、業務を強化・進化させられるという価値もあります。例えば、SAPのクラウドERPの場合、テクノロジーの進化に合わせて4半期ごとにバージョンアップが行われます。ですので、ERPパッケージに備わっている標準機能をそのまま使い、業務システムを構築している企業は、何もしなくても自動的にシステムの機能や性能を高めていくことができます。
しかも、世界標準のERPパッケージであるSAPの製品には、サードベンダーの優れたアプリケーションやクラウドサービスが連携しており、ユーザー企業はそれらのアプリケーションやクラウドサービスを必要に応じて使い、業務システムを強化・拡張していくことも容易です。つまり、SAPのERPのような世界標準のデジタルプラットフォームを使っていれば、そのエコシステムに引き寄せられてくる数多くの、そして最新のITソリューションを使い、業務の一層の効率化・自動化を図るのが容易になるということです。
標準化の価値(5):企業としての信頼・信用を増す
世界標準の業務プロセスを取り入れることは、もう一つ、重要な価値の創出にもつながります。それは、会社としての世界的な信頼性・信用度が高められるという価値です。例えば、上述したとおり、SAPのERPパッケージが備えるベストプラクティスは、世界有数の企業の業務プロセスに基づくものです。それをそのまま取り込み、事業運営を担う業務を回せているということは、その企業の業務処理の能力と品質、さらにはコンプライアンス性が、世界屈指の企業と同レベルにあることの証明となります。実際、世界では、SAPのERPを使っているかどうかが、企業としての信頼性を測る指標の一つとなっているのです。
「標準化偏差値」で可視化できるもの

すでにお気づきとは考えますが、SAPが策定している「標準化偏差値」とは、上述した標準化の価値を、自社の価値に転換できる能力を測るための指標です。
この値が高いと、冒頭でご紹介した会社のように、世界標準に基づいて全社の業務改革を一気に推し進め、相当の効果を手にしながら、次の成長・発展に向けた強固な土台を築くことができます。これにより、自社の成長力を高めることができるほか、世界標準に沿って業務が回せていることを周囲に証明することも可能になります。言い換えれば、標準化偏差値は、その会社の成長力と信頼性を可視化する指標であるわけです。
もちろん、世界標準のプロセスに自社の業務を適合させるうえでは、さまざまな条件がそろっていなければなりません。
業務を世界標準に適合させる条件
まず、大切な条件の一つは、業務の現場で働く方々が、これまでの業務の進め方を改め、世界標準を取り込むことに一丸となれるかどうかです。そのためには、経営陣が改革に対する意志と将来に向けたビジョンを明確に打ち出すことが大切ですし、そのビジョンを実現するために、全社が迅速に行動に移せるアジリティがなければなりません。また、会社の業務について、その全体を最適化する権限を持ったプロセスオーナーが存在し、しっかりと機能しうるかどうかも大切です。各業務の担当部門・担当者は、それぞれの業務の最適化(つまりは、個別最適化)を強く望むのが通常です。ただし、本来的には、顧客価値の最大化や標準化による業務全体の合理化といった全社的な視点で業務のプロセスを設計し、改革を推進しなければなりません。そのためには、プロセスに関するオーナーシップの確立が不可欠で、それがなければ業務全体の最適化・標準化に対する現場の抵抗を跳ね返すことができず、世界標準に自社の業務を適合させることが至難となるのです。
加えて言えば、業務の新しい進め方に順応する現場の柔軟性も、世界標準に対する業務の適合レベルを上げるうえでは重要です。
このような現場の柔軟性・適応力や、一つのビジョンや目的に沿って会社全体が一体となって迅速に動くアジリティ、さらにプロセスのオーナーシップは、全て変化に対する会社の強さを示す指標でもあります。つまり「標準化偏差値」は、その会社の成長力や信頼性の高さを可視化する指標であるのと同時に、変化への強さを示す指標でもあるということです。
今日の市場は、顧客ニーズの変化が激しく、競合企業や顧客の動静を注意深く観察しながら、新しい製品・サービスや事業の戦略を立案し、スピーディに展開していかなければ、市場での地位を維持・強化するのが困難になっています。
そうした時代の中で、「フィットツースタンダード」の実現は、ERPブームが到来したときのように「目指すもの」ではなく、いまや企業価値向上のための必須条件になっています。
果たして、あなたの会社は、世界標準の業務パッケージを使って経営のかじ取りを行えるでしょうか。そして、変化の時代で勝ち残るための土台は築けているのでしょうか。そして、組織のアジリティや柔軟性は確保されているのでしょうか──。「標準化偏差値」によって、その疑問への答えを導き出すことが可能になります。