「DX銘柄2020」企業に見るデジタルトランスフォーメーション(DX)の正攻法

読者の皆様は、経済産業省が推進している「DX銘柄2020」という制度をご存知でしょうか。その名称のとおり、これはデジタルトランスフォーメーション(DX)に意欲的に取り組み、成果を上げている企業の市場的な認知・価値を高める表彰制度です。選ばれた企業の取り組みからは、DXで成果を上げるための要点が見えてきます。

目次

DX銘柄とは?

DX銘柄は、2015年から2019年までの間、「攻めのIT経営銘柄」との呼称で経済産業省が東京証券取引所と共同で展開してきた制度です。

2020年からその呼称が「DX銘柄」に変更され、2020年8月にDX銘柄2020に選定された35社と、DX注目企業2020(21社)が発表されました。DX銘柄2020に選定された35社の顔ぶれは下図に示すとおりです。この図からも分かるとおり「DXグランプリ2020」には、株式会社小松製作所(コマツ)とトラスコ中山株式会社の2社が選ばれています。

図1:「DX銘柄2020」選定企業の顔ぶれ
図1:「DX銘柄2020」選定企業の顔ぶれ
資料:『デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2020』
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/keiei_meigara/report2020.pdf


2019年までの「攻めのIT経営銘柄」では、「中長期的な企業価値の向上や競争力強化に結びつく戦略的IT投資に意欲的に取り組む企業」が銘柄に選定されてきました。

それに対して、DX銘柄ではDXの定義に沿って「ビジョン・ビジネスモデル」「戦略」「組織・制度等」「デジタル技術の活用・情報システム」「成果と重要な成果指標の共有」「ガバナンス」の6項目と財務指標についてスコアリングし、評価委員会の最終選考を経て、最終的に35社が選定されたといいます(図2)。

図2:DX銘柄2020評価フレームワーク(攻めのIT経営銘柄2019年との比較)
図2:DX銘柄2020評価フレームワーク(攻めのIT経営銘柄2019年との比較)
資料:同上


ちなみに、DX銘柄におけるDXの定義は以下のとおりです。

──DXとは、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」


グランプリ企業のスゴさの理由

この評価フレームワークの中でグランプリに選ばれたトラスコ中山とコマツ──。果たしてこの2社のDXとは、どのようなものなのでしょうか。以下では、2社のうちトラスコ中山の取り組みにフォーカスしてみます。

まず、DX銘柄2020ではトラスコ中山のDXの取り組みを次のように評価しています。

── データの分析と活用を次のステージに進むための礎としたいという経営トップの認識が同社のDXの基礎にある。さまざまなソースからデータを収集し、AI等を活用してデータを分析し、それを同社の独創力としてサービスに転換するサイクルを柔軟に回すことに成功している。

実際、モノづくり現場を支えるプロツール(工場用副資材)の専門商社である同社では、40万点の在庫を保持し、ドライバー1本から即日配送できる独自モデルを構築しています。

また、DXを実現する土台として2020年1月には基幹システム(パラダイス)を「SAP S/4HANA」を活用して刷新。社内の業務改革を推し進めるとともに、得意先・仕入先との協創で「日本のモノづくり全体を支援するエコシステム」を発展させるべく、データ連携手段をさまざまに提供し、同社のリソース(在庫、物流、システム、データ)をプラットフォームとして活用するための環境を整備・高度化しています(図3)。

図3:トラスコ中山が構成するサプライチェーンのイメージ
図3:トラスコ中山が構成するサプライチェーンのイメージ
資料:同上

同社では、「納品待ち時間0(ゼロ)」を実現する新しいサービス「MROストッカー」も立ち上げています(図4)。

図4:MROストッカーの仕組み 図4:MROストッカーの仕組み
資料:同上

これは、『富山の薬売り(置き薬)』のビジネスモデルをデータ分析によって洗練させたような調達サービスです。トラスコ中山の資産として現場でよく使用される間接材を棚に取りそろえつつ、データ分析によってユーザーニーズを先回りしてプロツールを在庫化し、必要なときに必要な分だけの商品を利用可能にしています。

さらに、コロナ禍に対応するための営業業務改革の取り組みとして、独自開発の会話アプリとオンライン通話アプリを組み合わせたサービス「TRUSCOいつでもつながる『フェイスフォン』」を始動させているほか、2020年1月にリリースしたAI見積「即答名人」では、社員が事務所で行ってきた見積業務を自動化し、テレワークの促進にもつなげているようです。ちなみに、即答名人による2020年7月度見積自動回答数は6万3,678行に及び、見積業務全体の8.7%の自動化に成功しているとしています。

こうしたイノベーティブな取り組みを支える組織づくりのために、同社は従来から全部門横断の人事異動や上司・部下・同僚から評価を受けるOJS(360度評価)を実施してきたといいます。
2020年8月にはDXへのチェンジマネジメントを専門とする組織も立ち上げ、データドリブン領域とヒトのユニークさを織り交ぜながら、同社ならではのDXを推し進めていく構えです。

要点は、データとテクノロジーによる生業(なりわい)の価値向上

トラスコ中山の取り組みからは、DXで成功するカギの一つが、データとデジタルテクノロジーを使い、自社の生業の価値をいかに増幅させるか、あるいは顧客や取引先にとってより利便性が高く、快適で、価値の高いものに転換させるかにかかっていることが分かります。

生業とは、社会における企業の存在意義・存在価値とも言える事業のことで、顧客がその会社にお金を支払っている大元の理由とも言えます。トラスコ中山の場合でいえば、最終顧客が必要な商品を滞りなく手配し、届けることが同社の生業といえ、その生業に対して顧客が求めているのは、必要な工場用副資材を、必要なときに即座に手に入れられることです。上述した「即答名人」や「MROストッカー」は、そうした顧客のニーズをデータやAI・分析技術の活用によって満たす取り組みと見なせます。

このように自社の生業に対して、顧客が本当に欲していることは何かを追求し、その実現に向けてデータとデジタルテクノロジーを活用していくという手法は、DXの正攻法と言える
ものです。それをかたちにし、実績へとつなげている点がトラスコ中山のDXが高く評価されている点と言えるでしょう。

データ活用の基盤づくりの重要性

もう一つ、システム視点で言えば、トラスコ中山が刷新した基幹システムによってデータの収集・活用の能力を高め、それをDXの原動力にしていることも注目すべき点と言えます。

旧来、基幹システムはDXとの関係性は薄いと見られがちでしたが、DXの実現に向けて、データの収集・分析・活用能力を高めるうえでも、基幹の業務システムが整備され、社内のさまざまなソースからリアルタイムの、正確なデータが収集できることが大切になります。したがって、業務システムが部門・部署ごと、あるいは業務ごとにバラバラで、データが分断されているような状態ではDXの実現はままならないということです。また、同じくDXに向けて、業務プロセスを可能な限り、標準化・デジタル化し、変化への即応力を手にするうえでも基幹システムを整備することが重要です。

さらに、基幹システムの整備によってデータ活用の基盤を整えることは、プラットフォーマーとしての自社の可能性を広げることにもつながるようです。

先に触れたとおり、トラスコ中山では、サプライチェーンのデータ連携手段をさまざまに提供し、同社のリソースをプラットフォームとして活用するための環境を整備・高度化しています。これは、工場用副資材サプライチェーンの中央に位置する自社の機能をデジタルプラットフォーム化する取り組みと言えますが、これによってサプライチェーンのさまざまなデータが同社のもとに集まり、その分析・活用によってサービスをさらに洗練化させ、プラットフォーマーとしての価値を一層高めるという好循環も生まれるはずです。そして、こうした取り組みも、基幹システムの整備を土台にしたものと言えるのです。

▼ トラスコ中山のDX事例をさらに読む
「どうする、わが社のDX!?」そんな悩みに答える実践ノウハウ&成功ポイント

ちなみに、トラスコ中山と同じくDXグランプリ2020のコマツでは、SAPジャパンなどと協力し、建設生産プロセスにかかわる土・機械・材料などのあらゆる「モノ」をつなぐプラットフォーム「LANDLOG」を企画・運用しています。これにより、建設生産プロセスの部分的な「縦のデジタル化」だけでなく、施工の全工程をデジタルでつなぐ「横のデジタル化」を推し進め、現場の課題に対する最適解を容易に求めることを可能にするとしています(図5)。このようなプラットフォームづくりも、業務システムやデータ分析・活用の基盤を整えることによって実現されるものです。

図5:コマツ「LANDLOG」のイメージ
図5:コマツ「LANDLOG」のイメージ
資料:同上

コマツや中山トラスコ以外にも、DX銘柄2020に選ばれている半数以上の会社とSAPはかかわりを持ちますが、これらの企業も基幹システムの整備に取り組み、それをDXの取り組みに活かしている(あるいは、つなげている)と言えます。

ところで、DX銘柄はその名称どおり上場企業を対象にしたもので、DX銘柄2020に選ばれた企業の顔ぶれを見ても、業界を代表するような大手ばかりで、DXは大手でなければ実現できないような印象を受けるかもしれません。ただ実際にはそうではなく、逆に、データとデジタルテクノロジーによる会社組織や事業の変革は、事業や組織の規模が大きく、過去からの資産を多く持つ大手企業のほうが、中堅・中小規模の企業よりも推進の難度が高いと言えます。加えて今日では、クラウドサービスやITの急激な発展により、基幹システムを刷新したり、IoTによってデータを収集したり、データ活用の基盤を整えるコストはかなり低くなっています。しかも、組織の規模が大きくなく、現場と経営層との距離が近ければ近いほど、変革に向けた全社的な意思統一も図りやすく、チェンジマネジメントも行いやすいはずです。技術的なハードルも外部のベンダーの力を借りれば乗り越えることが可能です。DXによって企業競争力を高めるチャンスは、組織の規模とは関係なく、ほとんどすべての企業に等しくあると言えるのです。

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