地球環境に貢献しない企業に明日はない!?コロナ禍を境に加速する脱炭素社会への転換とSAPの取り組み
新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の流行は、安全で幸せな暮らしや持続可能な社会に対する人々の欲求を強め、それが脱炭素社会の実現(CO2削減)を含むESG(Environment・Social・Governance:環境・社会・ガバナンス)やSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)への関心の高まりにつながっています。そうした世の中の動きを追いながら、SAPの取り組みについて紹介します。

コロナ禍により環境保護が企業戦略の中心へ
世界経済フォーラムの創設者で現会長のクラウス・シュワブ氏がコロナ後の世界を描いて話題となった共著書『グレート・リセット』(邦訳版発行:日経ナショナルジオグラフィックス社)に次のような一文があります。「パンデミックは、経営陣にも明らかな教訓を残した。ESG(環境・社会・ガバナンス)に配慮しなければ事業の価値が破壊され、企業の存続を脅かすことにつながるということだ」
この教訓によって、ESGは今後、企業の中核戦略に完全に統合されたかたちで取り込まれていくことになると本書は予測しています。
ご存じの方も多いと考えますが、企業の経営戦略としてESGが注目され始めたのは10年以上前の話です。始まりは、国際連合事務総長コフィー・アナン(Kofi Annan)氏が提唱した機関投資家の投資原則「PRI(Principles for Responsible Investment:責任投資原則)」が2006年4月にニューヨーク証券取引所において正式にラウンチしたことです。
PRIは、「投資分析と意思決定のプロセスにESGの視点を組み入れる」「投資対象に対し、ESGに関する情報の開示を求める」など、6つの原則から成るルールです(*1)。この原則は、ESG投資の原則とも呼ばれ、PRI事務局(*1)によると、2020年時点で世界3,038(2006年のスタート時点では約100機関)の機関(資産運用規模約103兆ドル)が同原則に署名しているといいます。日本でも年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)をはじめ数多くの機関がPRIに署名しています。
このように、多数の機関投資家がPRIにコミットし始めたことで、企業の間でもESGを経営戦略として推進することに関心が集まりました。背景にある考え方は、環境や社会に対する配慮・貢献を経営戦略の柱の一つにすることで、企業としてのサステナビリティを高めて、投資家にとっての魅力を増やすというものです。
ESG投資の考え方が広まる以前、環境・社会への貢献は企業にとってCSR(社会的責任)を果たすための取り組みであり、利益の一部を環境・社会に還元するための活動といえました。それがESG投資の広がりによって、環境・社会への貢献は単なる「利益の還元」、あるいは「奉仕」の活動から、経営上の戦略へと変容し始めたわけです。この流れの中で、2015年にSDGsが国際連合(国連)で採択され、ESGと同様にSDGsも企業のサステナビリティを高める一手として経営戦略に組み込もうとする動きが見られ始めました。
もっとも、上で示した『グレート・リセット』の記述から推察すると、コロナ以前の世界ではESGやSDGsへの対応を経営戦略として遂行している企業は多くなかったようです。その状況を大きく変えたのがコロナ禍であり、この未曽有のパンデミックによって環境保全や健康に対する人々の意識がこれまで以上に高まり、その意識に欠ける企業は社会の一員として認められなくなるおそれが強まっているのです。
SAPによるCO2削減の取り組み
SAPの場合、10年以上前からサステナビリティ重視の経営方針を打ち出し、その一環としてCO2削減に取り組んできました。2009年には、企業としてのCO2排出量の削減目標を定めて社内の有識者をネットワーク化し、2017 年には2020年のCO2削減を前倒しで達成し、今度は2050年に向けた目標を定めました。ダウジョーンズの「Sustainable Index(サステナブルインデックス)」では、15年連続でソフトウェア企業部門の第1位に評価されています。また、こうした社内の取り組みを踏まえて、2020年6月には「CLIMATE21」プログラムも発表しました。これは、企業活動で発生するCO2削減を支援するためのプログラムです。その発表と併せて、プログラムに基づく第一弾の製品「SAP Product Carbon Footprint Analytics (SAP PCFA)」もリリースしています。
SAP PCFAは、企業のCO2排出量を可視化する製品です。本製品を導入することで、自社における最新のCO2排出量を、会社全体や地域ごと、製造拠点ごと、組織ごと、製品ごとなど、さまざまな視点で可視化したり、分析したりすることが可能になります。

環境への配慮で国策の支援につながる
言うまでもなく、自社におけるCO2削減の取り組みは、ESG・SDGsへの対応によって自社のサステナビリティを高めるだけではなく、国策に貢献することにもなります。ご承知のとおり、日本は地球温暖化対策に関する2020年以降の国際的な枠組みである「パリ協定」(2015年に成立)に従うかたちで2030年のCO2排出量削減目標を設定しています。
その目標は2021年3月まで2013年度比26%減とされてきましたが、同年4月に46%減へと引き上げられたことは記憶に新しいところでしょう。
ちなみに、日本の地球温暖化対策推進本部が2021年3月29日に発表した「2019 年度における地球温暖化対策計画の進捗状況」によると、2019年度における日本の温室効果ガスの総排出量(速報値*2)は約12億1,200 万トン(CO2換算値)で、2013 年度比14.0%減でした。低減の背景には、製造業における生産量の減少や電力の低炭素化(再生エネルギー使用の拡大)などがあったようです(表)。

上の表にあるとおり、企業の生産活動が日本のCO2(温室効果ガス)排出量に占める比率はかなり高いと言えます。ゆえに、日本政府が掲げた2030年目標(2013年度比46%減)を達成するうえで民間企業が果たすべき役割は大きく、政府は今後CO2削減に向けたさまざまな協力を民間企業に求めてくるはずです。
その要請に応えることは大切ですが、ESG・SDGsへの対応を経営戦略として推進するうえでは、政府の要請に先んじるかたちでCO2削減を戦略的に進めたほうが得策と言えます。また、CO2削減を含む環境への配慮を事業に組み込むことで、自社のブランド力や事業・商品の競争力を向上させ、収益力をアップさせられる可能性もあります。
また、先に触れた書籍『グレート・リセット』では、環境シンクタンクのシステミック社と世界経済フォーラムが2020年7月に共同発表した政策提言からの引用として「ネイチャーポジティブ経済の構築を進めると、2030年までに新たな経済活動の創出やコストの削減を通じて毎年10兆ドル以上の経済効果が期待できる」との一文を紹介しています。これは要するに、地球環境への貢献は企業にとって新たなビジネスチャンスを切り開く取り組みとなりうるということです。
コロナ後の世界においてEGS・SDGsを戦略的に推進しない企業は時代に取り残されることになる──。そのように判断し、環境への貢献を経営戦略、ないしは事業戦略に組み込む時期にさしかかっていると言えるのではないでしょうか。
▼ SAPでのサステナビリティ実践内容と外部支援推進について読む
SAPのサステナビリティ推進
*1 参考:PRI事務局サイト「About the PRI」
*2 資料:地球温暖化対策推進本部「2019 年度における地球温暖化対策計画の進捗状況」(令和3年3月29日公表)の数値を基に編集部で作成