ERPを「所有」から 「利用」へ。クラウド ERP がもたらす価値とは?

ERPが日本企業に流入してきたのは1990年代の初頭頃。当時は海外製ERPを日本の商習慣に合わせるためのカスタマイズが必須で、導入や運用にはかなりの負担がかかっていました。それから2010年以降、日本では国産ERPが登場したことで導入のハードルが下がり、ERPを利用する企業は続々と増えていきました。近年では、ERPの形態に変化が訪れ、自社で「所有」するオンプレミスから、「利用」するタイプのクラウドERPが登場しました。なぜオンプレミスからクラウドへの移行に注目が集まっているのか、そしてクラウドERPがもたらす価値とは何なのか、詳しく解説していきます。

企業がERPを導入する目的とは

現在多くの企業で、デジタル変革(DX)に取り組んで「業務改革」を目指す動きが活発化しています。ERPを導入する企業も増えています。

ERPは、企業が持つあらゆる情報(ヒト・モノ・カネ)を一元管理し、ビジネスの状況を把握できる「見える化」を可能とするITシステムです。これにより、情報のリアルタイムでの把握と、それを活用した分析、予測による迅速で正しい経営判断ができるようになります。
そして、見える化をするためにはデータの粒度や形状、タイミングをそろえて集計・分析できるようにしなければなりません。ERPは、そのための「業務標準化」も実現することができます。
こうした見える化と業務標準化は、最終的に「企業の競争力強化」にもつながるため、それを目的とした企業によるERPの導入が進んでいるのです。

ここで、ERPの導入を成功させた企業の事例を紹介します。
世界的なスポーツ用品メーカーであるヨネックスは従来、スクラッチ開発を重ねた基幹システムを使用していましたが、海外拠点を含めたサプライチェーンの強化や業務の標準化・効率化を実現するためにSAP ERPの導入を決意し、競争力の強化を図っています。「お客様増大を実現するグローバル経営基盤の構築」を目指し、ERPスイートの最新版「SAP S/4HANA®」と、マネージドクラウドサービス「SAP HANA Enterprise Cloud」などのSAPプロダクトを採用しました。

>事例の詳細はこちら:ヨネックスがSAPの次世代ERP「SAP S/4HANA®」の採用を決定

ERPのもたらす価値は「全体最適」

具体的な例を挙げ、ERPのもたらす価値について考えてみましょう。
例えば、複数の企業からなるグループ企業(製造業)の場合、最適な製品・部品の供給と調達コスト、製造コストの低減などを実現するには、グループ内の製品ごとの原価要素や販売価格の正確な把握が絶対条件となります。所属企業を統合して管理できる仕組みが必要となるのです。

しかしERPが普及する以前、多くの企業は部門単位で個別業務に最適化したシステムを作り運用していました。この場合、部門ごとに情報がサイロ化されているため、組織全体で横串を通して最適化を図ろうとする場面では足かせとなってしまいました。

一方、ERPはグループ企業も含めた組織全体の情報を統合し管理するため、部門をまたいだビジネスプロセスが連携でき、全体最適が可能となります。

進化する経営の見える化とERPを活用した企業のあるべき姿

ここまでで、企業の競争力強化にはERPが最適なシステムであること、そしてERPがもたらす価値は「全体最適」であることを解説してきました。では、ERPを活用した企業のあるべき姿とはどのようなものなのでしょうか。

情報のデジタル化が進んだ現在、経営陣にはリアルタイムな状況把握と、迅速かつ的確な判断が求められています。組織全体に最適化されていない旧来の業務システムでは、情報の寸断が問題となっていました。

組織を現場、マネジメント・経理、経営といった層で考えてみましょう。
現場業務を各部門で最適化し、連携していないシステムを利用していると、部門間のデータのやりとりには人が介在することになります。他の部門に問い合わせてデータを受け取り、自分が望む形にデータを集計・加工するなどの作業が必要になるのです。営業、購買、物流、製造など、部門ごとに壁があればあるほどデータを連携した利用が困難になります。
現場からデータを集めて経営層に報告したいと思っているマネジメント層も、あちこちからデータを収集し、Excelでの集計やPowerPointでの整理に手間をかけなければなりません。そして、経理担当者は、会計データの整合性に追われ、数量情報から会計情報への反映は月単位となってしまいます。このような状況では、経営層は自社に何が起きているかなどの状況をリアルタイムに確認できないのです。

全体最適されていない企業の情報伝達イメージ
図:全体最適されていない企業の情報伝達イメージ


ERPを導入している企業であれば、データ連携はリアルタイムに行われるため、人が介在したデータのやりとりや集計・加工が不要になります。会計についても月次といった長いスパンではなく、日次単位の必要なタイミングで正しい情報を得ることができます。経営層はいつでも必要な情報にアクセスし、即座に経営判断を取ることができるのです。

ERPを活用した企業のあるべき姿
図:ERPを活用した企業のあるべき姿


このように、ERPでの「見える化」、「業務標準化」による情報の把握、分析・予測を行い、時代に合わせた迅速な経営判断から「全体最適」していくことが、企業のあるべき姿と言えるでしょう。

さらに昨今では、AI/機械学習を活用した業務自動化や、マネジメント情報の高付加価値化も進んでいます。情報を記録して、整理して見せる役割の強かったERPも、高度な分析によって予測や判断の提案を行えるようになっています。 人が情報を見て分析するのではなく、AIが分析・予測して提案するスタイルに変化しつつあるのです。

ERPの「所有」から、クラウドERPの「利用へ」

AIの活用やマネジメント情報の高付加価値化など、情報の高度化に対応していくためには、オンプレミスで「所有」しているERPには限界が出てくるでしょう。進化し続けるテクノロジーや求められる情報の見える化・分析に対応し続けていく必要があるからです。

オンプレミスで「所有」しているERPにはいくつかのデメリットがあります。

  • 物理的なサーバーの故障による業務への影響
  • 保守期限切れ前の対応負荷と専任担当者への負担
  • 業務上使用していたアドオンが足かせとなり、ERPのバージョンアップが困難
  • ビジネス環境の変化による追加要件実装の際の人材・コスト面での負担
このように、自社でオンプレミスのERPを所有している場合、膨大な開発・管理コストと工数がかかり、絶えず進化し続けているITテクノロジーに対応できなくなる可能性も出てくると考えられます。そこで注目されているのが、クラウドERPでシステムを「利用」する考え方にシフトすることです。

現在、多くの企業がERPに限らずITシステムをクラウドサービスやSaaSなどで「利用」するという考えを持ち始めています。総務省が公表した『情報通信白書令和3年版』では、クラウドサービスを利用している企業の割合は約7割となっており、多くの企業(87.1%)でクラウドサービスの効果を実感しているとしています。

クラウドサービスのメリットは、ビジネストレンドの変化に応じて、新たなテクノロジーを取り入れることができることです。オンプレミスのように、設置場所やハードウェアの調達、プログラム開発が不要になるため、従来かかっていたような導入、開発、運用コストを削減することもできます。

オンプレミスからクラウドへ

「業務改善」よりも抜本的な「業務改革」が急務に

冒頭で、ITシステムを活用した「業務改革」を目指す動きが活発化していることについて触れました。ここで述べる業務改革とは“既存のプロセスをより良いものに改善していくのではなく、これまでにはない新たなアプローチで同じ結果を生み出すための“抜本的な改革”のことを指します。

例えば、撮影した写真を遠方に届ける場合、従来はフイルム式のカメラで撮影した写真を現像し、郵送するプロセスが主流でした。「業務改善」であれば作業工数を短縮する、作業を効率化するといった方法がありますが、このプロセスをどんなに改善したとしても、スマートフォンで撮影した写真をインターネットで送る方法よりも速く届けることはできないでしょう。「改善」と「改革」にはそれほどの違いがあります。

企業のあらゆる業務を改革するための第一歩は、ERPによる見える化と業務標準化による全体最適で、企業全体の状況を把握し、迅速な経営判断を行うことです。そして、その先の改革につなげていくためには、クラウドERPの利用が欠かせません。ERPの所有からクラウドERPの利用へシフトすることで、従来かかっていた人材・コストのリソースを、企業の競争力強化など本来業務へと充てることができるようになるからです。さらに、クラウドERPを活用すればAIによる分析と予測、マネジメント情報の高付加価値化にも取り組めるようになるでしょう。

ERPシステムの世界No.1シェアを誇るSAPが提供するクラウドERPは、企業のあらゆる情報を統合・管理する仕組みを1つのシステムで完結できます。ERPを中心にして、データ分析・予測、サプライチェーン計画、製造実行管理、カスタマーエクスペリエンス、ロジスティクス、タレントマネジメント、設備資産管理、購買・調達、出張計画・経費精算など、SaaS型のクラウドソリューションを活用することで、エンドトゥーエンドで適切な業務プロセスを実現できるようになっています。
また、SAPはグローバル標準で多言語・多通貨にも対応しており、各国の法令に準拠しているため、国や地域を選ばず組織全体での利用が可能です。

クラウドERPは、ERP導入の当初の目的であった「企業の競争力強化」だけでなく、企業全体の業務プロセスの抜本的な改革まで実現できる価値を秘めています。小手先だけの業務改善ではなく、業務改革を目指すために、クラウドERPを利用することを検討してみてはいかがでしょうか。

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