【SAP Sapphire Tokyo 講演】「標準化、システム導入」を“最高到達地点”にはしない デジタルテクノロジーの未来を見据えた、SOLIZEの全社DX
ビジネスプロセス管理の分野における世界有数のソフトウェアメーカー「SAP」の日本法人SAPジャパン株式会社が主催し、同社のソリューションを活用してビジネスの変革を目指す企業の声を届けるイベント「SAP Sapphire Tokyo」。本セッションでは、SOLIZE株式会社の堤皓朗氏が登壇。2020年に経営体制を一新した同社が、SAPを活用して進めている「全社変革」の全貌について語られました。

※本記事は、ログミー株式会社提供の全文書き起こし記事です。
【イベント】
SAP Sapphire Tokyo
【講演名】
Corporate TransformationとDXを支えるプロセス&デジタル基盤の構築
【スピーカー】
SOLIZE株式会社 執行役員 経営戦略・IT戦略担当 堤皓朗 氏
「本質的に美しいものづくり」の実現を目指し、3つの事業を展開
堤皓朗氏:みなさんこんにちは、SOLIZEの堤でございます。今日は時間も限られているので、ごく簡単に弊社を紹介させていただいた上で、本題に入っていきたいと思います。
改めて、弊社はSOLIZEと申します。社名の由来はスライドの左側に載っております。2012年に旧社名のインクスより変更いたしました。創業から約30年経っております。コロナで一定の売上への影響がございまして、コロナ前が160億円台、2020年が145億、2021年が159億。今年(2022年)はコロナ前の状態は完全に回復し、ここ数年で取り組んできた新規事業により成長へと舵を切っております。

我々の事業について、まずお客さまから申し上げますと、スライドの右側ですね。見ておわかりのとおり、製造業のお客さまが大半です。その中でも全体の売上の8割以上は、トヨタさま、ホンダさま、日産さまをはじめとするOEMや部品メーカーさんといった自動車関連のお客さまです。それ以外のエネルギーや重工業等の製造業のお客さまが十数パーセントといった内容です。
事業については左側ですね。設計・開発における、デジタル領域での設計・解析・制御といったエンジニアリングのサービス。それから弊社は1990年の設立当初から3Dプリンターを通じた事業を行っております。約30年の経験をもとに、エンジニアリングと3Dプリンターで製造業のお客さまのご支援をしております。もう1つ、設計の現場もしくは製造の現場に入り込んだコンサルティング事業を行っております。

私は2002年に弊社に入社して、社会人としてのキャリアをスタートしました。コンサルティング部門の経験が長く、2015年にコンサルティング事業のカンパニー長、現在は全社の経営戦略とIT戦略を担当しております。よろしくお願いいたします。
これまでのレガシーを払拭する「全社変革」を実行
それではさっそく本題に入ります。このCorporate Transformation、いわゆる全社変革を2020年から約2年半にわたって継続をしております。まだまだこの先も続けていきます。その背景としては、2010年前後に起きたリーマンショック、東日本大震災などの影響で、弊社も非常に経営が苦しい状況が続いておりました。
その中で業績の回復を優先し、事業別に縦割りでの回復をしばらく続けてきました。また、管理プロセスは非常に脆弱で、ITについてもコストとみなし、なかなか投資をしてきませんでした。
創業から30年ぐらい経ちまして、事業単体での回復を続けた結果、2010年代の後半に成長力が鈍化したという背景がございます。
2020年に経営体制を一新し、大幅な若返りをいたしました。もともと、もう少し先に計画していた、これまでのレガシーを一気に払拭する全社変革を、20年初のコロナの発生によりかなり前倒しで行おうと決断しました。
2020年の3月以降、今日お話をする一連のものを進めている状況でございます。
2つのフェーズで考える、変革の観点
この図は2019年の後半に私が書いたものです。ただ単に変革をするというより、どういった観点で変革をしていこうかということをまとめた1枚となります。
左から、オペレーションです。特に今DXと言われるプロセスとデータをいかに有効活用していくかという観点です。
さらに組織の観点では、PL(損益計算書)や予算策定のあり方、組織構造も含めます。そして昨今「人的資本経営」が叫ばれておりますけども、ヒューマンリソースの観点。さらには個々のストラテジー(戦略)の観点です。この全部を約5年かけて塗り替えていこうとスタートしました。
現在、スタートしてから約2年半が経っております。Corporate Transformationの第1フェーズを行っている段階です。過去30年のレガシーを脱却する、要は企業体としての再構築を行っている段階になります。

この目的は何かというと、その先の会社の成長基盤を作っていくことになります。約2年半が経っておりますので、当然足元はしっかり固めつつ、視点はさらに10年後を見据えて、2025年以降は第2フェーズを進めていこうと考えております。長期的な全社戦略を定めて、そこからバックキャストしてやっていこうと動き始めております。
中長期を見据えた全社改革の7項目
もう少し具体的にどういったことをやってきたか、1番から7番で書いております。
1番は体制、そして2番は組織。この組織のところは、もともと国内に3法人ございましたけれども、2021年1月に1つの法人に統合して、グループのシナジーを発揮するような体制を整えました。それに応じて事業部門の再編と、管理部門の統合を行っております。
さらにはちょうどコロナの影響もございましたので、3番の社員という観点で働き方、人事制度、オフィスに早期に手を付けました。現在は人的なリソースをどう活かしていくかという活動をスタートしております。
4番目の基盤は、業務プロセス、業務システム、ITインフラ。これもこの2年間でほぼすべて再構築をしました。5番目の事業戦略も中期計画2021-2024を作り、ちょうど今朝、執行役員会で2023-2025のキックオフをしたところになります。
6番、7番はもう少し先を見た長期的な活動となりますので、今日は1番から5番のところをお話しします。この1番から5番のところを掛け合わせたかたちを、我々は「DX活動」と呼んでおります。
「デジタル化」の3つの領域と2つのステップ
弊社のDX活動の狙いは、データとデジタルテクノロジーをしっかり使いこなすこと。さらに使いこなす前提で、活用可能なオペレーションに変革をして、デジタルビジネスの構築と経営基盤の強化を行うことです。
先ほど申し上げたデジタルテクノロジーの活用、そしてデータの一元化とその先の活用。この前提として、業務プロセスの統一・標準化、効率化の3点を基盤に置いて進めております。それをグランドデザインというかたちで、3つの領域と2つのステップの6象限に分けながら進めております。

領域は上から、まずお客さまとの関係をデジタル化すること、事業そのものをデジタル化すること、そして組織運営・働き方そのものをデジタル化していくことです。ステップとしては、デジタル基盤を先に作り、その上でデータを蓄積して、そのデータの活用とトランスフォーメーションにつなげていく。大きくこの6つのステップを定めて、それぞれの領域の活動をスタートしてから約2年ぐらい経つという状況です。

もう少し具体的な流れに落とし込むと、DXと一言で言いましても、みなさまがご存知のとおりデジタライゼーションやインフラといった観点もございますので、先ほどの絵とは見せ方が違いますけれども、この4つで区切りながら活動を進めている状況でございます。
標準化、システム導入時点を、DX活動の最高到達点にはしない
SOLIZEのDX活動を社内では「SDX活動」と呼んでおります。2020年の9月にSDX1からスタートいたしました。現在SDX3と4が走っている状況です。1と2は、それぞれプロジェクトとしてはすでに終了しております。
先ほどの3つの領域でどういったことをやってきたか具体的に申しますと、「お客さまとの関係のデジタル化」は非常にわかりやすい領域だと思います。CRMやマーケティングオートメーションを入れて、しっかりお客さまの情報をデジタル化して使える状態にしていくこと。
事業については個別でさまざま動いておりますので今日は省きますが、弊社のエンジニアリングと3Dプリンターというものづくりの力を使った、デジタルものづくり。そしてSaaS系のシステムをいくつか立ち上げようとしております。
さらに組織運営・働き方のデジタル化というところが、このSDXプロジェクトの主な対象範囲でございます。上に書いております1から4のうち、今3と4が動いている状況でございます。

先ほども申し上げました通りこのデジタル基盤におけるデジタルテクノロジー及びデジタルデータの活用の大前提として、弊社では全社における業務プロセスの統一・標準化、さらにはそのデジタル化を中心に進めております。これを進めるにあたり、特にこのデジタル基盤を作り上げるために、全社の基幹システムとしては4社比較の上、結果としてSAPのERPを選定したという状況でございます。

そのSaaS型のERPの選定にあたって弊社が重要視したポイントは、基本的にはFit to Standardを力強く進めることを決めておりました。ただそういった中で、標準化ならびにシステム導入時点を、瞬間的な最高到達点にはしないこと。要はその標準化した状態、システムが入った状態の一番いい高さを維持する、もしくはそれをより高いところに上げていくということを目標にして進めております。
現状の業務やシステムにとらわれないデジタル基盤の構築
課題の一時的な解決ではなく、解決した状態や効果を継続すること。さらにデジタルテクノロジーは、時間の経過とともにどんどん進化していくと思います。今できないことでも3年、5年後には、AIでできるようになってくる。その世界は絶対に来ると思いますので、それを見据えながらデジタルテクノロジーに力を入れている企業のERP(企業資源計画)を選定しました。その結果が、SAP ERPだったということになります。
このSAP ERP導入の基本方針は、デジタル基盤の構築については、現状の業務やシステムには一切とらわれないとしました。最終的にはエコシステムで現場から経営まで一貫してつなぐことを目指して、大きく2つの方針を立てました。
1つは「Fit to Standard」、もう1つが「ノンカスタマイズ」です。Fit to Standardは、始める前はいろんな意見がありましたが、徹底して行いました。さらに当然SaaS型のシステムですので、初めからカスタマイズができないことがわかっておりました。しかしこれは無駄なアドオンも作らないという裏返しでございます。こういった方針で2020年9月に活動を開始しました。

その結果を簡単に示しております。2020年9月末にプロジェクトをキックオフし、2021年7月からSAP ERPが稼働しています。キックオフから約9ヶ月での稼動です。当然、稼動直後は課題や混乱が多少ありましたが、しっかりとハイパーサポートにて対応しまして、クリティカルなイシューには繋がりませんでした。
稼働からちょうど1年ほど経ちますので、月次決算、四半期決算、年度決算をすべて経験いたしました。さらにSAP ERPの定期アップグレードも3回経験しておりますので、ある程度通常運転に落ち着いたかなと思います。そしてFit to Standardについては、徹底的な全面適用を全社で行ったことになります。
稼働して1年で見えてきた「違い」
アドオンの開発も、結果として1つのみでございました。この1つも作るか作らないか相当議論しましたが、3Dプリンター事業のトランザクションが非常に多いこと、短納期であること、さらには生産管理システムとの連携が必要という理由で、SAP ERPの前段に1つ噛ませるようなかたちで開発をした状況です。それ以外には、とにかくRPAを徹底的に使い倒すということで、例えばシステム間のデータ連携や経費の配賦処理(複数の部門・製品を横断して発生する経費を事業ごとに割り当てて処理すること)の自動化も、RPAで行っております。
稼働してちょうど1年が経ち、部門ごとのシステム外プロセスのさまざまな「違い」も見えてまいりました。次のステージとして、そういった違いをしっかり統一をしていく活動を今年4月から動かし始めている状況でございます。

まず1つは、システムの外側の、さまざまなチェック工程やコミュニケーションのプロセスを、詳細なプロセスレベルまで標準化し最適化をする、Fit to Standardの上でのBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング:現在の社内の業務内容やフロー、組織の構造などを根本的に見直し再設計すること)を進めています。
そして全社での効果的・効率的な業務を目指して、所掌など、各部門に散らばったものを社内シェアード化を進めている状況です。さらに構築段階では見えなかった、その先の実用段階における、さらなる効率化・自動化のプロセスを徹底的に洗い出して自動化すること。
1年で貯まったさまざまなデータを、次は活用して、経営のスピードを上げる、もしくは事業の売上を伸ばすという活動を、その後の継続活動として進めている状況でございます。
誰かのExcel、誰かのデスクトップに置かれたままにしない
最後に簡単にまとめますと、我々はさまざまな全社変革の複合的な活動を「DX活動」と定義しております。そのDX活動には、デジタルテクノロジーをしっかり使いこなすことはもちろん、今あるデジタルテクノロジーを使いこなすだけではなく、将来出てくるデジタルテクノロジーをさらに効果的に使っていくことも含めています。
そしてデジタル基盤に貯めたデータを活用し、トランスフォーメーションにつなげていく。そのためのデジタル基盤を構築してきました。そのデジタル基盤の前提としては、全社におけるプロセスの統一。そして貯めるデータを決めて、しっかりとデジタル基盤の中に貯めていくこと。
誰かのExcel、誰かのデスクトップに置かれたままにしないことを徹底し、全社での業務プロセスのデジタル化を進めております。
全社変革とDX、その根底には「プロセスの統一・標準化」が非常に大事だということを、最後のまとめとして今日のプレゼンテーションを終了したいと思います。ご清聴どうもありがとうございました。
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