市場調査から見る、中堅成長企業が取り組むべきサステナビリティ対策

変化が激しく先行きが不透明な現在、その状況を示す用語の頭文字をとって「VUCAの時代」と言われ、多くの企業ではデジタルデータを活用したビジネスの革新、「2025年の崖」への対応、リモートワークやジョブ型雇用など多様な働き方への対応など、取り組むべき経営課題が多数存在します。 なかでも比重が高くなっているのが、サステナビリティ対策です。2015年には、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標であるSDGsが示され、環境保護や個人情報保護など世界的にさまざまな規制の強化も見られます。 企業は社会的責任のための活動をより深く事業活動に組み入れ、その詳細を社会に対して開示していく必要に迫られています。本記事では、サステナビリティ対策について企業はどのような意識を持っているのか、今後中堅企業はどのような取り組みをしていかなければならないのか、調査結果を踏まえて解説していきます。

中堅企業のリーダーへの市場調査から見える、サステナビリティ重視の姿勢

コロナ禍によって多くの人が不確実さを実感した社会において、中堅企業のリーダーたちはどのようなことを優先したいと考えているのでしょうか。
SAPが実施した世界的な調査「SAP Insights Midmarket Senior Executive Priority*」によると、最優先事項として挙げられたのは収益の拡大であり、効率化の向上とリスク低減がこれに続いています。そして、収益拡大の要因として挙げられた回答には、よりサステナブルな新しい製品やサービスを導入し、カスタマーエクスペリエンスを向上させることが上位を占め、これらによってさらなるイノベーションを実現するという共通項が見られました。この結果から、サステナビリティは収益源の要であると考える企業が増えていることがわかり、さらには中堅企業の意識と優先事項に大きな変革が起きていることの表れでもあります。

*: 41カ国28業種の年間売上高10億米ドル未満の企業に在籍する経営幹部1万507人からデータを収集。回答者は部門を監督する最上位の責任者で、2021年9月から2021年12月の期間にオンライン調査を通じて寄せられたもの。

大手企業でもサステナビリティ対策は重視されています。米国を代表する主要IT企業ではサプライチェーンのカーボンニュートラル達成を約束したり、サプライヤーへの再生可能エネルギーへの移行要請・支援を実施したりするなど注力しています。製造業においても主要なサプライヤーに対して毎年一定の割合のCO2削減を求めたり、部品や素材製造時のCO2排出量の開示を求めたりしています。大企業がサステナビリティ対策を実施するということは、その周辺の中堅企業においてもその義務が生じるということです。つまり、サステナビリティ対策は中堅企業にとっても他人事ではなく、優先的に取り組むべきこととなりつつあると言えます。

サステナビリティ対策が企業に与える影響と、取り組むために必要なこと

サステナビリティとは、企業として目先の利益を追い求めるのではなく、自然環境や社会システムの維持にも目を向けようという考え方や活動を指します。事業活動が地球環境や世界経済、人々の生活に与える影響を考慮しながら、長期に運営できるような活動を目指すことが求められているのです。

しかし、「サステナビリティ=自然環境保護」のイメージが強いため、これが企業の収益増や経営課題の解決にどのように影響するかを想像しにくいと考える方も多いと思います。具体的な例を挙げて考えてみましょう。

たとえば、品質が非常に高くコストが安い製品があるとします。しかし、その製品を作るために、環境負荷の高いエネルギーや材料を使用していたり、著しく賃金を抑えるなど非人道的な調達・製造工程があるとどうなるでしょうか。
昨今の投資家や銀行は、環境や人道的配慮も注視する傾向にありますので、たとえ品質がよい製品でも、環境や社会に悪影響を与える企業をよいと評価せず、融資にも影響が出ます。
さらに、現在はSNSなどを通じて企業活動が広く伝播するようになっているため、企業が環境負荷をかけていたり、非人道的・アンフェアな活動をしていると、企業のブランドイメージを損なう恐れもあります。
このような状況にあることから、サステナビリティを意識していない企業活動を行っていると、企業の支持者が減少し、事業の拡大も困難となる可能性があります。

しかし裏を返せば、サステナビリティ対策には企業のブランドイメージと評価を上げる可能性を秘めているということでもあります。そして、それは最終的に企業の強みになると言えるでしょう。

■成長企業が掲げるサステナビリティ対策に向けた推奨事項

自社があらゆる企業や投資家、消費者から支持される企業となり、収益と効率化を実現するためのサステナビリティ対策とはどのようにすればいいのでしょうか。

SAPが発行している『変革のマインドセット:成長企業が掲げる新たな戦略的優先事項』では推奨事項として以下の4つを挙げており、その中にはサステナビリティ対策も含まれています。

  • 現状のプロセスを精査し、変革メリットや成長の阻害要因を把握する
  • 現状のプロセスを精査するためのITシステムを検討する
  • 企業活動に関連するデータの収集、測定、分析を行い、サステナビリティを高める
  • 目的達成のためにITシステムを活用し、短期的な業績向上だけでなく、長期的な業務効率化と競争力の強化を目指す
上記の推奨事項で一貫して必要とされているのが「ITシステムの導入」です。自社を成長させるために適切なシステムを選定することで、業務継続性や拡張性に加え、セキュリティ対策、そしてイノベーションを促進することができます。

では、大手企業の取り組みの一つとして提示した「CO2排出量の開示」について考えてみましょう。 業務上で排出しているCO2を正しく把握するためには、まず組織内のあらゆるデータを収集、測定し、詳細に可視化する必要があります。そして、そのデータをもとに分析した情報を先進的な企業のベストプラクティスに沿って運用することで、サステナビリティ対策を行えるようになります。これにより短期的な業績向上だけでなく、長期にわたって効率と競争力を維持できるような企業経営が実現できるようになるはずです。

しかし大手企業のように専任の組織を作れない中堅企業では、環境データの可視化ができていない、データの収集方法やデータ品質に不安があるなどの課題を抱えていることが多く、ビジネスプロセスとITシステムにサステナビリティをどう組み込むかがわからないという企業も少なくありません。さらに、CO2排出量に関する規制や、企業に求められる情報開示の要件などは今後も変わり続ける可能性があるため、データ収集から手作業で対応するには限界が出てくるでしょう。
そこで、活用するものがITシステムです。自社に最適なものを導入し、データ収集と集計、分析、可視化までを自動化して業務プロセスに組み入れることが重要なのです。

サステナビリティ対策のためのITシステムを提供するSAP

中堅企業がサステナビリティ対策を行うためには、最適なITシステムの導入が重要であると説明しました。では、具体的にどのようなシステムを取り入れるべきなのでしょうか。

ERPを中心とした業務アプリケーションを提供しているSAPでは、企業がサステナビリティ対策に取り組むために必要なあらゆる情報の可視化と活用を支援するITシステムも提供しています。
サステナビリティという点において、SAPは2009年のリーマンショックの翌年から、さまざまな取り組みを行ってきた歴史があります。2012年には、売上や利益などの財務データだけでなく、経営理念、社員のモチベーション・スキル、技術力、取引先や得意先などの関係資産といった非財務データも載せた統合報告書の提出を開始しています。さらに2014年には、全てのデータセンターおよび施設に100%の再生可能電気を供給し、2016年にはグローバル差別禁止ポリシーをリリース、2019年には「廃棄物ゼロ」の目標と「循環経済」イニシアチブを開始。そして2023年までにカーボンニュートラルに移行する予定であるなど、長期にわたってサステナビリティを意識した企業経営を行ってきました。SAPは自社だけでなく、これらの取り組み・経験を活かしてお客様企業のサステナブルな事業・業務作りに貢献する製品とサービスの提供にも取り組んでいます。

SAPのサステナビリティの軌跡
図:SAPが取り組んできたサステナビリティ対策とこれからの展望


基幹システムと先進的なベストプラクティスの利用によって、サステナビリティ対策を支援

ここまで、サステナビリティの重要性と、それを実現するためにはITシステムの導入が必要であるという話をしてきました。しかしサステナビリティ対策は、ひとつのシステムを導入して解決する課題ではありません。基幹システムが管理する「調達量」や「生産量」といったデータに加え、取引先情報や業務プロセスとも密接に関連するからです。一連の企業活動やそのために必要な要素を統合管理できれば、CO2排出量が少ない調達や生産、物流プロセスの実現、従業員のモチベーションやスキル向上など、注力すべきテーマを見つけることができるようになるでしょう。

SAPでは、企業の意思決定に欠かせない情報を収集、一元管理するSAP S/4HANA、データを可視化して迅速に正しい判断を下す支援をするSAP Analytics Cloudなど、サステナビリティに関するデータを収集・管理し、改善活動に活かすITシステムを提供しています。
CO2排出量可視化、人的資本情報開示、非財務情報開示といった経営層・管理層向けのフレームワークだけでなく、業務プロセスに標準化されたサステナビリティ要素を盛り込み、現場の担当者が気づきを得て対処できるよう可視化する仕組みです。経営層・管理層と実務層が一体となった取り組みを効率的にサポートできるのです。

企業の規模を問わず、サステナビリティが必要となっている現在、その対応において「早すぎる」ということはありません。SAPはお客様のサステナビリティ対策を一気通貫で支援しますので、ぜひお気軽にご相談ください。

>記事内で紹介している調査レポートはこちら
SAP Insights 変革のマインドセット:成長企業が掲げる新たな戦略的優先事項

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