グループ一体経営に向けて3社のERPをSAP S/4HANA Cloudに統合し、高速な意思決定を実現したテクノホライゾンのチャレンジ
M&Aで事業を拡大し、多くのグループ会社を抱えている企業にとって課題となるのは、経営指標の統一や業務プロセスの標準化です。「映像&IT」と「ロボティックス」を核に多彩な製品とサービスを提供するテクノホライゾン株式会社も、主要カンパニーの経営指標の統合、管理会計業務プロセスの効率化、月次決算の早期化などが課題になっていました。同社は個別化されていた基幹システムをSAP S/4HANA Cloud, private editionに移行し、1つのインスタンス、1つの会社コードに統合しました。導入の経緯と得られた効果を紹介します。

目次
業務プロセスの統合に向けSAP S/4HANAを採用
愛知県名古屋市に本社を置くテクノホライゾンは、テクノホライゾン・ホールディングスの連結子会社であった株式会社エルモ社、株式会社中日諏訪オプト電子、株式会社タイテックを吸収合併し、事業会社に移行する形で2021年4月に誕生しました。現在は「教育」「安全・生活」「医療」「FA」を重点市場に、3つのカンパニーの得意領域を活かしたソリューションを提供しています。経営を支える基幹システムは、2010年にタイテックがSAP ERP(ECC6.0)の会計・販売・購買・生産等の主要モジュールをビッグバン導入しました。一方、エルモ社と中日諏訪オプト電子は、「他社のERP(ロジスティクス)+会計システム」の構成であったために月次や連結の決算確定、異常値分析などに時間を要していました。そこで経営陣は2社の基幹システムもSAPで統合することを決断。システム統括部 部長の森下重信氏は次のように語ります。

「SAP ERPを使っているタイテックと他社のERPを使う2社の間で、数値の管理レベルに差があったことがボトルネックでした。課題を解決するには3社の経営指標を統合し、子会社の状況を同じレベル/仕組みで把握できるようにする必要がありました」
そこで同社は子会社管理の効率化、業務プロセスの統合などを目指して、SAP S/4HANAの採用を決定しました。
「SAP S/4HANAを採用したのは、インメモリーデータベースによる圧倒的なスピードが得られるからです。タイテックが利用してきたSAP ERPに合わせることも考えましたが、5年、10年先を見据えるなら、SAP S/4HANAに移行すべきと判断しました」(森下氏)
製造主体の2社と販売主体の1社の要件を整理

2018年4月より開始した導入プロジェクトは、翌年4月に完了。プロジェクトは外部のコンサルタントやベンダーに頼らず、タイテックのSAP ERPの運用を担ってきた自社のIT部門による少人数の体制で実施しました。
導入に際しては、受託生産を中心とするタイテックや中日諏訪オプト電子に対して、エルモ社は工場を持たない販売主体の会社であったため、ビジネス慣習への新たな対応やシステム要件が発生しました。
「当時は販売を主体とする会社の販売管理や在庫管理に関するノウハウが乏しかったため、まずはタイテックのテンプレートをベースに、販売会社固有の価格の決め方、在庫の持ち方・引き当て方などの違いを意識しながら、コアの機能に影響を与えないように開発を進めていきました」(森下氏)
カンパニーによってマスターの持ち方、原価計算の方法、販売価格の決定の仕方などが先行導入していたタイテックの業務プロセスと異なるため、現場のコンセンサスを得ながら、業務プロセスの標準化を進める必要がありました。FIT&GAPを実施した結果、業務の前後関係まで含めると従来から7割の業務プロセスの変更が発生したところもありました。それでもグループのシナジーを発揮するためには、極力業務を標準化していかなければなりません。
「経営トップが各社の会議体に直接参加し、SAP S/4HANAの導入意義を丁寧に説明して、目的の共有化を図りました。タイテックで10年間にわたってSAP ERPを運用してきた経験をもとにユーザーからの要望や質問に回答したり、実際にデモを見せたりしながら説明しました」(森下氏)
グループ3社のシステムをSAP S/4HANA Cloudに統合
2020年4月には3社の経営統合に向けて、タイテックのSAP ERPとエルモ社と中日諏訪オプト電子のSAP S/4HANAを統合するプロジェクトを立ち上げ、2021年4月よりSAP S/4HANA Cloud, private edition(以下、SAP S/4HANA Cloud)へと移行しました。「サーバー保守の管理負荷を軽減したり、バージョンアップを容易にしたりすることを考えるなら、クラウド版にすべきと判断しました」(森下氏)
すでに2018年のSAP S/4HANA導入で業務プロセスが標準化されていたこともあり、SAP S/4HANA Cloud移行時の業務要件の整理は比較的スムーズに進み、より柔軟性の高いシステムを構築できました。
一方で、3社の数値レベルを合わせるために、改めて取引先とのマスターの持ち方や勘定コード、レポーティングの形を見直しながら、今後を見据えたあるべき姿に近づけていきました。
現在は、国内外の子会社、M&Aで取得した会社のシステムも順次SAP S/4HANA Cloudに統合しています。
変化するビジネス環境に迅速に対応
主要3カンパニーのシステム統合はさまざまな効果をもたらしました。まず、SAP機能に合わせた業務ルールの変更やロジスティクスと会計のデータ整合性確保、SAP HANAのデータベースで実現した高速化により、月次決算に要する日数は、従来の5~6日から2~3日に短縮されました。「経営会議や部門会議を月次の締めから1週間程度で開催して、製造、調達、販売などの各部門の責任者が最新の経営数値を評価しながら、半導体不足や円安といった外部環境の変化や、新たに発生したビジネス課題への対策を、早いタイミングで実施できるようになりました」(森下氏)
MRPの処理も従来比で8倍高速化され、これまで1日に1回だったMRP計算が、就業時間内でも実施可能になりました。大きな計画変更が発生しても即座に調達や製造を調整できるため、ビジネスチャンスを逃すリスクもなくなりました。
データの一元化によって原因分析や比較検討のスピードが上がり、意思決定までの時間も短縮されました。従来はSAP ERPからデータを取得して集計し、Excelでレポートを作成していたため、集計作業に多くの時間と工数がかかっていました。現在はSAP S/4HANAのデスクトップアプリのSAP FioriやSAP Analytics Cloudを使ってユーザー自身で分析ができます。
「新システムではデータ加工や集計作業をしなくても、ユーザー自身でツールを使って定型レポートなどを参照し、正しい数値データをもとに意思決定できます。データの加工に要する工数も削減でき、残業時間も短くなりました」(森下氏)
業務面では、業務プロセスの標準化によって課題対応力の向上や、業務負荷の平準化が図られました。また、複数のカンパニーや子会社からなるテクノホライゾングループの部門間、グループ間においても人材の流動性が高まりました。
さらに、親会社が子会社の管理指標を全社統一の数値レベルで見ることができるため、組織全体のマネジメントレベルが向上。M&Aによる急速な成長の中でも同一の基準でマネジメントが可能になり、グループ一体経営への貢献が期待されています。
「異なるカルチャーを持つ企業のM&Aを進める当社にとって、業務プロセス以外にも数字の把握や分析など、意思決定に資する領域が標準化されているメリットはとても大きいと実感しています」(森下氏)
システム面では、同一の基盤上ですべてのデータを扱えるようになり、IT部門の運用負荷が大幅に軽減されました。クラウド化でサーバーの保守/運用もなくなり、IT部門の要員はIoTやBIの活用など、より付加価値の高い業務に集中することが可能になっています。
レポーティング機能の充実を図り、多くのカンパニーに展開
今後は、子会社へのSAP S/4HANA Cloudの展開と並行しながら、経営層向け、中間レベル層向け等のレポーティング機能を充実させ、多くのカンパニーのユーザーがSAP FioriやSAP Analytics Cloudを使ってスピーディに意思決定できる環境を整備していく計画です。また、旅費・経費精算ソリューションのSAP Concurも統合時に導入し、経費精算の電子化、キャッシュレス化が進んでいます。今後は監査のデジタル化にも取り組んでいくといいます。
「クラウドにシフトしたことで、短サイクルのバージョンアップで機能を強化したり、新たな機能を取り入れたりすることが可能になりました。SAPにはさまざまな企業のベストプラクティスを取り入れ、私たちが簡単に使える発展系の仕組みを提供してもらうことを期待しています」(森下氏)
テクノホライゾン株式会社様 ERP導入プロジェクト事例動画