人事担当者を悩ませる5つの課題
日本企業の人事部門にとって受難の時代が続いています。少子高齢化の荒波は、企業の人材育成・人材確保に暗い影を落とし、さまざまな組織が「人材が足りない」「人材が採れない」といった人材難に苦しめられています。人事担当者は、そんな時代をどう乗り越えていけばいいのでしょうか。その答えを探し当てるには、今、直面する課題を整理してとらえておくことが初めの一歩です。以下、人事担当者を悩ませている5つの課題について考えます。

目次
- 人材が足りない、良い人材が採れない──人事の悩み(1)
- 人材育成が難しい──人事の悩み(2)
- 人材の流出が止められない──人事の悩み(3)
- 才能のありかがわからない──人事の悩み(4)
- 人事自体の人手が足りない──人事の悩み(5)
人材が足りない、良い人材が採れない──人事の悩み(1)
日本企業の人材不足や採用難を引き起こしている元凶は一つです。皆さんもご存知のとおり、それは少子高齢化・労働人口の減少に歯止めがかかっていないことです。改めて数字を確認すると、今から10年ほど前の2008年の生産年齢人口(15歳~64歳人口)は、8,230万人(出典:総務省統計局)でした。それが2018年4月には、2008年より約670万人少ない7,560万9,000人(出典:総務省統計局)に落ち込み、2028年は、2018年よりも約546万人以上少ない7,014万7,000人になると推計されています(出典:国立立社会保障・人口問題研究所『日本の将来推計人口(平成29年推計)』)。
2008年から2018年にかけての670万人の生産年齢人口減というのは尋常な数ではありません。例えば、2017年時点の東京の平均就労人口は768万2,000人(東京都総務局2018年2月28日・報道発表資料より)です。つまり、この10年の間で、東京で働くワーカーの大多数が消え失せてしまったぐらいのインパクトが労働市場を直撃しているわけです。そして2028年までの10年も同程度の勢いで労働力が失われるようとしているのです。
こうした生産年齢人口の減少は構造的な問題ですが、今日の人材不足の問題はそれだけに起因したものではありません。
例えば、バブル崩壊後の“失われた20年”間、日本の企業は、新卒採用を抑えるという施策を展開し、それが“就職氷河期”という流行語も生み出しました。のちに景気が多少浮揚したかに思えた2008年にリーマンショックが日本を直撃し、それから数年は我慢のときを過ごさなければならなかったといえます。
こうした中で、いくつかの業種・業態の組織で見られ始めたのが社内人材の高齢化です。つまり、長く若手の雇用を抑え続けた結果、組織の高齢化が年々進んだということです。そして、いよいよ若手が必要になり、採用募集をかけたときには、少子高齢化が進行していて思うように採用が進まず、結果、高齢化と人材不足が解消できずにいるといった格好です。また、ベテランと若手とのつなぎ役を演じる中間世代の社員が相対的に少なく、苦労して採用した若手の育成がうまく回せずにいる組織もあるようです。
人事担当者としては、こうした組織上の問題を解決しなければなりません。ただし、労働市場が、バブル期をしのぐとされる「売り手市場」の今日では、抜本的な解決は非常に難しいと多くの方が感じておられるのではないでしょうか。
しかも、今日の若い世代にとって、会社は選んで入る場所であり、彼らにとって魅力的な職場、あるいは働く意味を見出せる職場でなければ、有望な若手を確保するのはさらに難しくなります。となれば、人事担当者は、自らが中心となって魅力的な職場作りを進める必要がありますが、それも決して簡単なことではないはずです。
とはいえ今日では、市場から将来を嘱望されるスタートアップ企業ですら、人材の雇用に苦労を強いられているとされています。自社に適した若い力を雇用するのは、今の日本ではそれほど難度が高く、その状況はこれからも長く続くことになります。
人材育成が難しい──人事の悩み(2)
有望な新人や人材を獲得する難度が上がり続けている中では、現有の社内人的リソースのパフォーマンスを高め、経営への貢献度を最大化させることが、以前にも増して強く求められていると言えます。そんな中で、人事担当者には、社員を“人財”化する役割、言い換えれば、人財開発をしっかりとサポートすることが期待されています。
ただし、人財開発もそう簡単なことではありません。
たとえば、開発の出発点として、自社にとってどのような能力を持った人員が必要で、どういった人に、どのようなパフォーマンスを発揮させたいかを明確に定義しなければなりません。そうしないと、有効な人財開発のプランが立てられないからです。
また、仮に開発のプランが立てられたとしても、それに沿って遂行した人財開発プログラムの成否判定の基準を定め、PDCAサイクルを回し続けなければ、人財開発プログラムが形骸化してしまう恐れがあります。
一方、社員の潜在的な能力を引き出せるどうかは、人財開発プログラムだけで決まるわけではありません。所属している組織や担当する仕事が、その人に適しているかどうかによっても人財開発の成否は左右されます。したがって、人事担当者は、その辺りも注意深く観察し、人財開発のための適切な判断を下していく必要があります。
加えて言えば、面接時の評価から、これまでの所属組織、仕事上の経験、受けた育成プログラム、そして目標達成度をすべて管理して評価し、さらなるパフォーマンスアップには何が必要かを割り出すことも大切でしょう。ちなみに、こうした情報をすべて残しておくことで、組織内で活躍しているエース人財の道のりを逆にたどって、新しい社員の採用判断や育成に役立てることも可能になるとされています。
言うまでもなく、このような作業を、給与情報や所属組織、職位だけを管理するような人事システムで行うことはできません。ですから、人事担当者は、自ら自社に適した統合的な人財ソリューションを探し当てる必要があるといえるのです。

人材の流出が止められない──人事の悩み(3)
人材の流出をどう阻止するかも、人材の採用難が続く中では極めて重要な人事戦略です。また、自社の中でキャリアを積んだ人材に辞められることは、企業にとって大きな経済的な損失で、それを最小限に食い止めることは経営課題でもあります。人材が流出してしまう理由は、給与に対する不満、仕事に対する不満、ポジションや評価に対する不満、将来に対する不安や不満、さらには、職場での人間関係に対する不満などさまざまでしょう。そして基本的には、人事担当者からは見えにくい業務の現場で人員の不満が膨らみ、流出へとつながっていきます。
その意味で、人材流出の多さは、組織全体の問題であって、人事担当者がすべてを背負うべきものではないとも言えます。それでも、人材流出の頻度が高ければ、人事制度に問題がある可能性もありますし、流出してしまった人材の穴を埋めるために難度の高い人材雇用に追われることになるのは人事担当者です。
才能のありかがわからない──人事の悩み(4)
かつて、日本企業の組織が固定的で、人材の流動性も低かったころ、優秀な人事担当者は、社員ひとり一人の基本属性はもとより、性格や趣味・特技、受けてきた教育など、ほぼすべてを記憶していたとされています。しかし、組織の変化が激しく、人材の流動性も高まり、さらには、日本企業の海外進出が活発化したことで、人事担当者が自社の社員数すら正確に把握することが困難になっているのが現実です。そんな中で、人事担当者の悩みごとの一つになっているのが、「どういった才能/スキルを持った社員がどこにいるか」をいかにして把握するかです。
というのも、これが把握できなければ、自社の事業戦略に沿って組織を編成するという人事本来の役割を担っていくことが難しくなるほか、どの組織にどういったスキルを持った人材が必要なのか、組織力強化のためにどういった人財の開発を急ぐべきかを判断することができないからです。
もちろん、組織の規模が小さく、相互のコミュニケーションが活発ならば、どのような才能を持った人材がどこにいるかの把握は難しいことではないでしょう。
人事自体の人手が足りない──人事の悩み(5)
もう一つ、人事担当者にとっての大きな悩みごとと言えるのは、人事担当者の数が足りていないことです。企業の人材難が深刻化する今日では、経営戦略上、人事担当者が果たすべき役割はますます重要性を帯びています。ただし一方で、勤怠管理や給与計算など、人事としての労務的業務もしっかりと回していかなければなりません。
人事の現場業務は、徹底的な正確性と効率化が求められる業務です。給与計算にしても1円のミスによって人事部門のみならず、会社が従業員からの信頼を失ってしまいかねません。
加えて、人事担当者は、毎年のように行われる税制・法改正にもしっかりと対応しなければなりません。2018年においても、見直された配偶者控除や配偶者特別控除が適用になるなどさまざまな変化があり、また2018年6月29日には、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)(以下「働き方改革関連法」)が国会で可決・成立して、2019年4月1日から順次施行されます。
こうした情報を正しく、的確に把握するには、厚生労働省の発表を常にチェックしておく必要があるなど、それだけ人事担当者に相応の負担をかけます。しかも、人事システムに改正された内容をきちんと反映しなしなければなりません。
そうした現場の作業を漏れなく、確実にこなしながら、上述したような人材を巡るすべての課題に対応していく──。限られた人的リソースの中で、それをどうこなしていくかが、人事担当者にとっての最大の課題と言えるのかもしれません。