次の10年の成長・発展を遂げるために─デジタルトランスフォーメーションに必要な業務基盤を知る

日本の成長戦略
経済産業省が2017年5月に打ち出した「新産業構造ビジョン」(*1)をご存知でしょうか。これは、少子高齢化・人口減という深刻な社会的課題と対峙する日本が、次の成長・発展に向けて何をすべきかのビジョンを示したものです。このビジョンの中で経産省は、IoTを通じて収集した膨大な数の実世界データ(リアルデータ)を、あらゆる業種・業態の企業が、オープンに活用できるプラットフォームも創出していくとしています。そのプラットフォーム上に集められたデータを、AIで分析し、日本の社会全体の高効率化・最適化に活かしていくというのが、経産省のビジョンです。
この構想では、「スマートなサプライチェーン」を実現するための土台として、工場や企業の枠を超えてサプライチェーン全体にかかわるデータを共有・活⽤するための「先進システム」の構築も計画されています。このシステムによって、日本の製造・生産現場の高度化・効率化が加速されるとしています。
そんな国の動きと連動するように、企業のデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)が進展を見せています。例えば、中堅・中小の製造企業の間でも、IoT・AIによる「ものづくり」の効率化・自動化に取り組み、一定の成果を上げているところが増え始めています。
*1 参考:経済産業省「新産業構造ビジョン」概要版
http://www.meti.go.jp/press/2017/05/20170530007/20170530007-1.pdf
成長・発展を妨げるもの
経産省が、新産業構造ビジョンを打ち出した背景には、少子高齢化・人口減が進行する中で現状維持のスタンスを取り続ければ、経済の縮小は避けられないとの危機感があります。実際、10年後の2028年には生産年齢(15歳~64歳)人口が、2018年よりも約546万人以上少ない7,014万7,000人になると推計(*2)されており、経済規模を維持するのは非常に厳しい状況にあると言えます。それは、多くの企業が共通して持つ問題意識でもあり、だからこそ、デジタルテクノロジーの活用や海外の成長市場への進出に意欲的に取り組む企業が増えていると言えます。
そうした中で、事業のグローバル化を意欲的に進める企業も、さらには、DXによってビジネス変革を推し進めようとする企業も、共通するある課題を抱えている場合がよくあります。その課題とは、部署・部門、あるいは業務ごとにシステムとデータが分断していることです。
たとえば、中堅・中小の製造企業において、会計・販売・在庫・生産管理の各業務システムがバラバラの状態にあり、互いのデータのリアルタイム連携/統合が実現されていないことが多くあります。また、それと同様のことは、他の業種・業態の中堅・中小の企業でも少なからず見受けられています。
言うまでもなく、企業の基幹業務を支えるシステムとデータが分断された状態にあると、その運用管理だけでIT組織の負荷が膨らみます。また、業務ニーズの変化によって異なるシステム間でのデータ連携が必要になった際にも、かなりの開発工数とコストをかけなければなりません。加えて、いずれかのシステムのバージョンが上がるたびに、連携部分のメンテナンスが必要になり、それも相応の期間とコストを要します。
そして、業務ごとにシステムが異なれば、業務プロセスも局所最適で属人的になります。結果として、業務全体を見渡して、業務プロセスの最適化を図ったり、業務の適正さや有効性・効率性を全社的に管理・統制したりする難度も上がります。
こうした問題は、表計算ソフトなどのオフィスアプリケーションが絡んでくるとさらに複雑化します。かつてのOA(オフィスオートメーション)化の流れの中で、企業の各業務部門ではオフィスアプリケーションを当たり前のように用いています。ただし、その活用の仕方に全社共通の決められたルールが設けられているわけではなく、それぞれの部門、あるいは担当者が、自分たちの業務ニーズに合わせたかたちでオフィスアプリケーションを用いています。結果として、データの収集・集計・加工のやり方が部門ごと、あるいは担当者ごとにバラバラで、業務を回すためのデータがどのように作られているのかが中央のIT部門で掌握できなくなっているケースがあります。
さらに場合によっては、部門内の誰かが組んだ表計算ソフトのマクロを使い、業務に用いるデータの集計・加工が行われていることもあります。表計算ソフトのマクロは、大抵の場合、作った本人にしかメンテナンスができません。ゆえに、マクロを作成した担当者が部署異動などによって部門からいなくなるだけで、変更・刷新が不可能になり、部門の業務に支障をきたすこともあるのです。
*2 参考:国立立社会保障・人口問題研究所『日本の将来推計人口(平成29年推計)』
http://www.ipss.go.jp/pp-zenkoku/j/zenkoku2017/pp29_Report3.pdf

DXの推進を阻害する分断されたシステム
業務システムが上述したような局所最適の状態にあると、DXの推進は難しくなります。理由の一つは、既存のIT環境の維持管理にITの予算と人的リソースの大部分がとられ、DXに推進に十分なリソースを振り向けることができないからです。
また、分断されたシステムの上に、IoT/AIなどのテクノロジーを導入したとしても、個別的な課題解決にはつながっても、企業のビジネスモデルを大きく変容させるまでには至らない可能性が大きくあります。
同様に、他社との連携によってサプライチェーン全体の最適化を図ろうとしても、そのために、「いつの時点の、どのデータを他社に提供すべきか」の判断ができない可能性があります。加えて、自社内のすべての業務プロセスがデータを起点に最適なかたちで回せるようになっていなければ、そもそも、他社とのデータ共有で“スマートなサプライチェーン”を確立することは難しいといわざるをえません。
もう一つ、局所最適型のシステムの場合、それぞれの担当部門のニーズに従うかたちで周辺システムとの連携や他部門システムとの連携が都度図られ、結果として、「全体として、どの部門の、どのシステムが、どのシステムとどのようにつながっているか」が、誰も掌握できなくなっている場合があります。
その中で、DXの取り組みとして、革新的なUI(ユーザーインタフェース)によって、これまでになかったようなUX(顧客体験)を提供できるサービスが考案できたとしましょう。
このとき、フロントエンド部分の開発は行えたとしても、そのサービスが生む顧客との取引を処理したり、サービス利用者の情報管理を行ったりするのは、結局はバックヤードの業務システムになる可能性があります。
ところが、バックヤードのシステムが、上述したようなかたちで複雑化してしまっていると、新しいサービスの始動によって、どの範囲のシステム/業務に、どの程度の影響が出るかがなかなか特定できず、結果的に、サービスの立ち上げが遅れ、競合他社に先を越されてしまう恐れが強まります。
新しい顧客体験を創出し、顧客との関係を強化したり、顧客との新しい関係を構築したりするための「SoE(Systems of Engagement)」のサービスはスピードが勝負です。というのも、考案した時点では画期的に思えたサービスも、立ち上げに時間をかけていれば、すぐに他社に先を越されたり、アイデア自体が陳腐化してしまい軌道修正を求められたりするケースが多いからです。
その意味でも、SoE、あるいはDXを支えるバックヤードのシステムは、新しいシステム/サービスのスピーディな展開を支えうる強固で、変化にも強い仕組みであることが必要です。そうでなければ、企業はDXの試みを自由に、安心して展開していくことはできないと言えるのです。
では、分断された業務システムの問題を早期に解決するにはどうすればいいのでしょうか。その最適な手法と言えるのが、ERPの導入なのです。
事業のグローバル化にも分断されたシステムが負の影響を及ぼす
各業務を支えるシステムが分断された状態にあった場合、企業の海外拠点の業務システムには現地法人やスタッフに最適なアプリケーションが導入されるのが一般的です。そうなる理由はシンプルで、日本の業務部門が、他部門との連携を考えずに選択したシステムは、大抵の場合、日本の商習慣に最適化されたアプリケーションであるからです。このような日本特化のアプリケーションは、各国の法制度や税制度に対応させるのが難しく、GDPR(General Data Protection Regulation:EU一般データ保護規則)など、国や地域ごとの新しい法制度・消費税率などの変更に柔軟に対応することができません。また、そもそも、日本ローカルのソフトウェアが、進出先の海外では提供されていなかったり、ソフトウェアに対するサポート体制がなかったりする場合がほとんどなはずです。
こうしたことから、現地の社員が扱いやすく、その地域・国の商習慣にフィットしたシステムが導入され、使われるのが一般的でした。ところが、その手法を採用すると“個別最適”のシステムと業務プロセスがまた一つ生まれることになります。そして、海外拠点を増やすたびに、個別最適のシステムと業務プロセスが増えていき、各国の業務が適正に、かつ効率的に行われているかどうかの判断がつかなくなる恐れが強まります。
もちろん、各国の業務システムが拠点ごとにバラバラであれば、データモデルや粒度が各国で異なることになり、日本本社の業務システムとのリアルタイムでのデータ統合が困難になります。結果として、例えば、グローバルでどの商品が、どのようなプロセスの下で、どう売られ、どの拠点に、なんの商品の在庫がどれくらい存在するのかを即座に把握したり、業務に関してグローバルな統制を効かせたりすることが難しくなります。
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