クラウドERPの価値を知る ─クラウドERPでできることと魅力について解説

ERP(Enterprise Resources Planning)は、企業の持つ資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を統合的に管理し、有効活用するための基幹業務システムです。ERPには様々な利点がありますが、当初は導入のコストや手間から、二の足を踏む企業も少なくありませんでした。しかし、近年ERPへの理解・導入方法が進化し、低コストでの導入も可能に。さらにクラウド型ERP(以下、クラウドERP)の登場により普及が加速しています。本稿では、ERPの効果や導入方法、クラウドERPによってもたらされる新たなメリットなどをご紹介します。

※ 本記事は2018年11月に掲載された記事を、加筆・修正したものです。

経営資源の全体最適化に寄与するERPと近年の傾向


基幹システムとは、文字どおり企業の主要業務を支えるシステム全般を指しています。会計、人事・給与、販売・在庫、生産管理、調達管理などが、その主要業務に当たり、市場にはこれらの業務にそれぞれ対応したアプリケーションパッケージが存在します。

企業の業務は、「企画」「開発」「受注」「調達」「生産」「在庫管理」など、あらゆる業務が互いに連携することで成立しています。これらの各業務を異なるシステムで管理することは、業務全体の効率化にはつながっても、全社的な業務の最適化にはつながりません。

そこで、あらゆる業務データを一元管理し、企業活動を支える業務の統合的な管理と標準化を可能にする手法を採用したシステムが「ERP(Enterprise Resources Planning)」です。これにより、すべての部門が“単一のファクト(データ)”に沿って、連動して動くことが可能になります。また経営層も、全社の状況をリアルタイムに把握し、経営資源の最適化に向けたプランをタイムリーに立てることができるのです。

これまで、ERP活用が進む大手企業と比較し、中堅・中小企業の間では導入がそれほど進んでいませんでした。しかし近年では、中堅・中小企業によるERP導入が活発化し始めています。自社の業務にERPを適合させるのではなく、ERPの機能に自社の業務を適合させることで、ERP導入に要する工数とコストがともに大きく低減されるようになったからです。

そして今、その流れをクラウドERPがさらに加速させています。

オンプレミス型からクラウド型へのシフトが加速

クラウドERP は、インターネットを経由してアクセスできるERPソフトウェアのことで、プロバイダーが用意したクラウドサーバー上で、“サービスとして (as-a-service)” 提供されます (SaaS ERP)。ユーザーは、ソフトウェアを所有せず、年額制または月額制のサブスクリプションベースで利用が可能。ハードウェアの初期費用はかからず、アプリケーションの保守、アップグレード、イノベーションの実装のほか、データストレージやセキュリティもベンダー側で対応します。

従来のERPは、自社内にサーバーやソフトウェアなどを整えて利用するオンプレミス型が主流でした。しかし、デジタル技術や通信インフラの進歩によって状況は大きく変わりました。事業環境は絶え間なく変化しており、自社で構築する旧来の ERPシステムでは、その変化に柔軟・迅速に対応できません。加えて、国内外のパートナーとの協業も進み、世界中のビジネスネットワークを管理しなくてはならなくなった状況において、どこからでもアクセスが可能なクラウドERPが主流になりつつあるのです。昨今の在宅勤務やテレワークの普及も相まって、オンプレミス型よりも短期間・低コストで導入でき、メンテナンスも不要な点も普及を後押しする要因となっています。

また、かつては、自社内でセキュリティ管理ができないことや、インターネットを介することから、パブリックタイプのクラウドERPは、セキュリティ面が弱いと言われていました。しかし、近年では、クラウド事業者側が最新のセキュリティを施したデータセンターを整備しており、社外に機密情報を保管できるクラウドERP が、BCP対策としても高く評価されるようになっています。

スピード、コスト、対応力に優れるクラウドERP

クラウドERPは、ERPの機能をサービスとして提供するSaaS(Software as a Service)です。SaaSの基本的な考え方は、「ソフトウェアの機能を不特定多数のユーザーに共用させることで、ソフトウェアの活用コストを引き下げる」というものです。これは、一人の顧客に向けたオーダーメイドのスーツよりも、不特定対数の消費者に向けた既製品のスーツのほうが安く提供できるのと同じ原理です。

また、既製品のスーツでも、自分用にカスタマイズしようとすればコストがかさみますが、それと同様に、SaaSであるクラウドERPについても、自社用にカスタマイズしようとすればするほど費用がかさみ、本来のコストメリットは失われていきます。

その逆に、クラウドERPの機能に自社の業務を適合させれば、企業は大きなコストメリットを手にできます。例えば、クラウドERPでは、活用のためにハードウェアを別途調達する必要はなく、その分の手間とコストが不要になります。また、システムの導入後も、ハードウェアのメンテナンスやリプレース、OS、ミドルウェア、そしてシステム本体のアップデートはクラウド事業者側で行われます。ゆえに、運用管理に関するユーザー側の負担もかなり小さくなるのです。

また、クラウドERPのカスタマイズを最小限にとどめれば、システムの立ち上げに要するコストと併せて工期も圧縮されます。そのため、ERPのシステムをスピーディに立ち上げることが可能になります。

さらに重要なのは、展開のスピードです。クラウドERPの場合、システムを各所に展開するスピードが、オンプレミス型よりも圧倒的に速くなります。そもそも、クラウドERPのサービスは、ネットワークに接続できる環境があれば、場所を問わずにどこからでも利用できるからです。

ですから、クラウドERPで構築したシステムは、業務部門の所在がどこであろうと、あるいは、支所・支店が国内外のどこにあろうと迅速に展開することが可能です。同様に、国内外の支所・支店の新規開設・移転、あるいは閉鎖などの変化が起きても、クラウドERPを使えば即座に対応できますし、新規事業のための業務システムを新たに構築し、展開するのもスピーディになります。


従来、システムの開発・展開のスピードがビジネススピードに追随できず、ITが経営の俊敏性を損なわせる場合もありました。クラウドERPを活用すれば、そのような事態を回避しながら、各業務を横に貫くデータの統合化を実現し、業務の効率化や経営判断のスピードアップにつなげられます。言い換えれば、基幹業務の基盤をクラウドERPへと移行させることで、ビジネススピードを増すことが可能になるということです。
オンプレミスからクラウドへ

SAPのクラウドERPはあらゆる業務プロセスに適応

もっとも、クラウドERPのすべてが、上述したような効果を企業にもたらせるかと言えば、そうとは言い切れません。

例えば、ERPを初めて導入する際には、既存の業務プロセスを見直し、最適な業務のあり方を描いていく必要がありますが、それに多くの時間を費やしてしまい、ERP導入プロジェクトが長期化することがよくあります。それを可能な限り短くする一手は、ERPに組み込まれているビジネスシナリオをそのまま自社の業務に適用することです。

とはいえ、ビジネスシナリオが自社の業務にまったくフィットしていなかったり、その適用が、自社の業務の最適化やビジネスの強化につながる確証が持てなかったりすれば、ビジネスシナリオを受け入れることは難しくなります。

その点、SAPのすべてのERP製品には、クラウド型か否かによらず、多岐にわたる業種・業態の、膨大な数の成功企業の業務ノウハウがベストプラクティスとして組み込まれ、テンプレート化(ビジネスシナリオ化)されています。ユーザー企業は、それらの中から自社にフィットするものを選ぶだけで、世界最高水準のノウハウに基づいた業務プロセスの最適化・標準化が図れるのです。
その利点は大きく、SAPのERPユーザーの間では、世界のベストプラクティスが活用できることをSAPのERPの最大のメリットと評価する声が少なくありません。

SAPではこれまで培ってきたテクノロジーや運用ノウハウからクラウドERPを開発・提供しています。企業規模・業界・業態・部門にあわせた最適なビジネスシナリオや運用トレーニングなどの提供により、お客様の事業成長をサポートいたします。

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