次世代人事プラットフォームへの挑戦──「SAP HR Connect Autumn」エッセンス Vol.1
SAPジャパンは2018年11月、人事業務の変革にフォーカスを当てたフォーラム「SAP HR Connect Autumn 2018」を催しました。本コラムでは、その講演内容のエッセンスを紹介していきます。初回となる今回は、アビームコンサルティング株式会社の坂本孝司氏(P&T Digital-HCMセクター)の講演内容のエッセンスを紹介します。

急増し始めた人事システムの刷新ニーズ
「最近になって、給与システムを含む人事システム全体を刷新したいという、お客様からの問い合わせが急激に増えています」──。「SAP HR Connect Autumn 2018」での講演に臨んだアビームコンサルティング P&T Digital-HCMセクターの坂本孝司氏は、上のように話しを切り出します。
では、なぜ今、人事システム刷新のニーズが膨らみ始めているのでしょうか?
背景には、人事部門の負荷が高まっていることと、デジタルテクノロジーの進化があると坂本氏はいいます。例えば、人事部門に対しては、かねてから経営・現業部門の事業戦略をともに推進する“ビジネスパートナー”としての役割が期待されてきました。それが今日では、ビジネス自体が目まぐるしく変化し、どのような変化が起きるのかがほとんど読めなくなっています。
「結果として、人事部門は『非連続的なビジネス変革』への対応という難題と対峙しなければならなくなっています。加えて、『働き方改革の推進』『従業員満足度の向上』『健康経営の推進』『時代に即した社員研修スタイルの確立』など、今日の人事部門がなすべきことは多岐にわたり、それぞれの領域で社内の期待にこたえていかなければなりません。それには、人事オペレーション自体を効率化することが不可欠となっているの です」と、坂本氏は語り、次のような説明を加えます。
「そうした中で、デジタルテクノロジーに目を投じると、RPA(Robotic Process Automation)による定型業務の自動化や、AIチャットボットによる問い合わせ対応の合理化など、人事部門の業務効率化に役立つ、あるいは役立つと期待できるソリューションがさまざまに登場してきています。そうしたテクノロジーの進化を積極的に享受すべきという考え方が、人事部門の間で見られ始めています。実際、革新的なテクノロジーを積極的に取り込み、人事のデジタル化──つまりは、“デジタルHR”を実現して、効率性を高めていかないと、時代に取り残される恐れがあります。そうならないためにも、人事システムの刷新を急ぎたいと考えるお客様が 増えているということです」。
従来システムを巡る課題と刷新の壁
もちろん、既存の人事システムが柔軟性に優れ、変化に即応できるものであるとすれば、刷新の必要はありません。ただし、人事システムを含む日本企業の業務システムは、米国企業のそれと比べると維持・運用管理にコストがかかり、機能の変化・追加を行うのにも、相応の工数と費用を要するものが多いと、坂本氏は指摘します。「実際、当社のお客様からも、『働き方改革に向けて人事ルールや人事制度をスピーディに変えていきたいのだが、システム側がその要求になかなか対応できず、困っている』といった声をよくお聞きします。こうした問題も、人事システム刷新の動機づけになっています」
もっとも、人事システムの刷新は簡単なプロジェクトではないとも坂本氏はいいます。
「とりわけ、パッケージ製品を使い、自社の要件に合わせて機能追加を繰り返してきたようなシステムの場合、刷新は大仕事となり、多くの業務プロセスの変更も伴います」と、坂本氏は指摘し、こう続けます。
「したがって人事システムの刷新に乗り出すか否かは、会社の事情や判断によって異なると考えます。ただし、一定の犠牲を払ってでもデジタルHRを目指し、次世代人事プラットフォームの構築に乗り出す価値はありますし、その決断によって相当の効果を手にしている企業もあるのです」

実例に学ぶ次世代人事プラットフォーム構築の要諦
将来を見据えて、従来型の人事システムから、次世代人事プラットフォームへの移行に踏み切る──。その挑戦に成功した企業の一例として、坂本氏は、自身がシステム構築に携わった、ある大手商社 のプロジェクトを挙げます。「このプロジェクトは、次世代人事プラットフォームへの移行を軌道に乗せた好例と言えるもので、その取り組みからは、システム刷新を成功させるための秘訣も見えてきます」と、坂本氏は話します。
坂本氏によれば、この取り組みが成功した一因は、人事部門によるKPIの明確な設定があったといいます。そのKPIには、システムコストの30%低減といった定量的な目標のほかに、テレワークへの対応、人事システムの現場利用の促進といったプラスアルファの効果も定められました。
もう一つ、自社固有のプロセスに対するこだわりを捨て、パッケージの標準業務プロセスをベースに、人事業務プロセスの全面的な見直しを断行したことも、成功に大きく寄与していると、坂本氏は指摘します。
「パッケージの業務プロセスを全面的に採用するという決断を下した結果、このお客様は100以上の新たな業務フローを再編成されました。これは相当の決意がなければできることではありませんが、その見返りとして、当初設定したKPIはすべてクリアーできるとの見込みが立っています。人事部門が変化を受け入れ、従業員に対しても明確なKPIを見せて変化を許容させる──そうした思い切りと戦略が、次世代人事プラットフォームへの移行を成功へと導いているようです」
こうした成功例を踏まえたうえで、坂本氏は、次世代人事プラットフォームを構築するうえでの要点を次のようにまとめます。
「何よりも大切なのは、変化を見越した利便性を常に考えることです。組織が絶えず変化することを見越せば、定型的に加工された人材情報を出すことよりも、最新の人材データを保持することだけを考えて、そのデータをさまざまな角度から出せるようにしておいたほうが便利なはずです」
また、変化を前提にするならば、機能やプロセスの作り込みも避けるべきと、坂本氏は訴え次のように話しを締めくくります。
「一時的な“便利”のために変化するモノを作り込んだところで、それは資産になりえません。そう考えれば、必要に応じて外部のさまざまな業務機能を柔軟に取り込めるよう、システム連携の幅を持たせておいたほうが便利なはずです。そうした観点から、自社にとっての人事システムの“便利”を再定義し、人事プラットフォームの今後を検討されることをお勧めします」