AIや機械学習によって分析業務が進化する 「Augmented Analytics」の世界―Analyticsシリーズ第2回

そもそも「Augmented Analytics(拡張分析)」とは?
ビジネスにおけるデータ活用のあり方は、ITツールの進化とともに変容してきました。まず個人単位でのデータ活用を最初に牽引したのは、Excelに代表される表計算ソフトです。表計算ソフトは、パソコン上でのデータの集計/分析を容易にし、さらにその結果は定型レポートとなって組織レベルで共有されるようになりました。
表計算ソフトに続いて、多くの企業で導入が加速したのがBI(ビジネスインテリジェンス)ツールです。BIツールの登場によって、業務部門のエンドユーザーがデータウェアハウスやデータマートに蓄積されたデータにアクセスし、アドホック(自由)な分析やレポーティングを行うことが可能になったと言えます。
その後、BIツール自体のコンセプトが時代とともに変化し、現在では、高度なデータモデルやビジュアライズ機能を備え、直感的な分析をサポートするデータディスカバリー(データ探索・課題発見)型のツールが主流を成しつつあります。
ただし、ツールの機能が高度化しても、データ活用のプロセスそのものには大きな変化はなかったと言えます。人が仮説を立てて、その仮説を証明するためにデータの加工やフィルタリングを行い、データ集計軸の切り替え(スライス&ダイス)を行ったり、データを深掘り(ドリルダウン)したりして、問題点に迫っていく──。このデータ分析のアプローチ自体は、表計算ソフトを使っていた時代からほとんど変化していません。
そのデータ分析のプロセスをガラリと変化させようとしているのが、機械学習や深層学習などのAI(人工知能)技術を応用したAugmented Analyticsなのです。
データの前処理に費やしてきた人間の作業負担を軽減
Augmented Analytics の考え方は、AIにデータの構造を学ばせて、人間が必要としている潜在的な情報や知識を提示させるというものです。もっと平たく言えば、「分析を自動化する仕組み」が、Augmented Analyticsであるというわけです。データ分析の自動化が必要とされている理由はシンプルで、次の2点に集約できます。1つ目の理由は、企業が分析の対象とすべきデータソース/データ量が増大し、複雑化していることです。今日、企業内データの大多数は、文書や画像・動画・図面といった非構造化データで、その数は毎年“倍々ゲーム”で増え続けています。しかも、企業が分析しなければならないのは社内データだけではありません。社外のWebサイトやSNSなどから収集したデータや、IoTのセンサーが収集したデータなども、分析の対象としなければなりません。これらの大量で、多岐にわたるデータを人間の力だけで分析するのはほぼ不可能と言えるのです。
2つ目の理由は、より戦略的な分析が必要とされ始めていることです。「データ駆動経営」という言葉が一般化していますが、今日では、データ分析がさまざまな意思決定のプロセスに組み込まれるようになり、ビジネス現場でより迅速にインサイト(洞察)を得たいというニーズが高まっています。それが分析の自動化ニーズへとつながっています。
では、Augmented Analyticsは、こうした分析の自動化、あるいは迅速化のニーズにどこまで対応しうるのでしょうか──。この問いへの答えを説明するうえでは、現在のデータ分析のプロセスを改めて整理しておく必要があります。
まず、現在のデータ分析のプロセスは、以下の3つにステップに分割することができます。
1. データの前処理
2. データ内のパターン検出
3. 結果の共有と運用
米国の調査会社ガートナーによると、この中で最も手作業への依存度が高いのは「1. データの前処理」で、データ分析プロセス全体にかかる時間の85%が、このステップに費やされているといいます。そして、Augmented Analyticsは、この「データの前処理」に費やしてきた人間の作業負担を大幅に軽減することが可能な技術です。
これまでのデータ分析では、例えば、ダッシュボードでどのようなデータをどう見せるかを決めて、データソースからデータを抽出するのは人間の仕事でした。Augmented Analyticsは人の代りにそれを行い、自然言語やビジュアルなグラフを用いてインサイトを示します。結果としてデータ分析のプロセス全体の時間が短縮するとともに、さまざまなバイアスを排除して分析精度を向上させることが可能となります。

業界に先駆けてAugmented Analytics技術を実装
SAPではこのAugmented Analyticsの技術に着目し、業界に先駆けてSAP Analytics Cloudソリューションに搭載しました。具体的には次のような機能の活用が可能となります。1. スマートディスカバリー機能:
経営課題における正負の因子であるバリュードライバーを明確にし、それに基づいた損益シミュレーションなどを実行。
2. スマートインサイト機能:
これまで人間が仮説を立て、フィルタリングやドリルダウンで行っていた分析プロセスを自動化し、ワンクリックで関連するインサイトを解き明かす。
3. 時系列予測機能:
過去の時系列データから、季節性やサイクル性、上昇/下降などの傾向を要素分解しながら学習し、これを基にして将来の業績や数値をデータドリブンに予測。
さらにSAP Analytics Cloudは、上述のスマートディスカバリー機能を拡張したダッシュボード自動作成機能もあわせて提供します。例えば、売上高や収益といったターゲット変数を指定するだけで、その変数に貢献度の高いバリュードライバーや、そのランキング、相関する変数間の状況を解説する高度なダッシュボードとストーリーボードを自動的に生成します。データ分析の初期ステップでこれらのボードを活用することで、データの前処理に要する手間や時間を大幅に削減するのはもちろん、その後の分析結果の活用に至るプロセス全体を効率化し、組織内での共有も瞬時に行えるようになります。
また最新の機能アップデートでは、自然言語で問いかけることで、瞬時にデータ構造から適切なKPI集計やチャート生成を行い、自動的に回答となるインサイトを表示する”インサイト検索”機能をリリースしています。例えば「製品別・地域別の売上高を見せて」と問いかけると、棒グラフチャートを即座に生成して表示してくれる機能です。
こうしてSAP Analytics Cloudに搭載されたAugmented Analytics技術は、単に分析業務を効率化したり属人的なブラックボックスを排除したりするだけでなく、人間の理解の範囲を超えた膨大なデータの分析を可能とし、潜在的なインサイトを導き出すことでデータ分析能力そのものの向上にも貢献します。
一方で人間はAugmented Analyticsを“相棒”としながら、よりクリエイティブな思考が求められるビジネスの企画や線路策定、アクションに多くの時間を割いて専念することが可能となります。
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