HR Techで変えた若手の成長支援―SAPの取り組みとHR Tech活用例

2018年11月28日(水)、ベルサール東京日本橋で、日本能率協会マネジメントセンター(JMAM)とSAPジャパンが共催で「採用・配属・育成のベストサイクルを考える!これからの若手成長支援」と題したセミナーを行いました。 国内の生産年齢人口は減少し続け、事業を支える人材確保が今後ますます難しくなることは日本企業の共通課題です。本セミナーでは、若手育成をテーマに、アセスメント活用や効果的な若手の成長支援手法などをご紹介しました。セミナーの中からSAPジャパンが講演した「HR Techで変えた若手の成長支援」のサマリーをご紹介します。

事業変革を迫られたSAP

まず、SAPジャパン株式会社 人事本部 HRビジネスパートナーの濱岡 有希子が、SAPの事例についてご紹介しました。



SAPはドイツに本社を置き、全世界での売上高は約3兆円、従業員数は約9万人。1972年の創業から30年以上、業務管理システムのERPパッケージを主力事業として業績を拡大してきましたが、2008年ごろに、リーマンショックの影響などで成長が著しく損なわれる事態に陥りました。そこでSAPは生き残りをかけ、事業の多角化とグローバル化を2本の柱とした変革に乗り出しました。2010年には、ERPのパッケージが事業の9割を占めていましたが、変革から5年後の2015年には事業規模が急激に拡大し、その6割以上が新規事業となる大きな変遷を遂げました。

新しい事業戦略に伴い、人事制度も様々な改革が必要になりました。その一つにあげられるのが、若手の成長支援です。事業の多角化に不可欠なイノベーションを起こし、グローバル化を推進するためには、新しい発想を持ち、グローバルなフィールドに抵抗の少ない若手の力がより重要になってきます。そこで若手がさらに活躍できる組織を目指して、人事面で様々な取り組みを行いました。

SAPの新卒採用の取り組み―ブートキャンプと長期インターンシップ

優秀な若手人材を早期に確保するため、SAPは全世界で新卒採用を始めました。そのためのプログラムを2つご紹介します。

1つ目は「ブートキャンプ」。採用前に、1日かけて行うグループワークです。架空のお客様に対して、どのように当社の製品を提案するか、グループで話し合い、プレゼンテーションを行います。エントリーしてくださった学生の方にSAPについてより深く理解していただく機会として、また、当社のカルチャーにあう素養をお持ちの方を見極めるためにも、非常に意味のある取り組みと捉えています。

2つ目が長期インターンシップ。当社では17カ月間という非常に長い期間をかけて、学生の方に様々な経験を積んでもらっています。日本ではこの取り組みを今年から始めました。SAP本社のCIOはまだ30代ですが、このプログラムの参加者です。日本からも、彼のような人材が生まれることを期待しています。

若手育成プログラム、SAPアカデミーには50カ国から1,000人以上が参加

グローバルで新卒採用を開始すると同時に、新卒社員の育成プログラムをグローバルで展開しました。その取り組みの一つに、SAPアカデミーという特徴的な育成プログラムがあります。これは、全世界から選ばれた若手社員が米国のアカデミーに集まり、9カ月間、一緒に学ぶ取り組みです。米国と本国を行き来しながら、SAPの事業や最新テクノロジーについて学び、職場でのOJTに活かします。2014年に開始以来、卒業生は50カ国、1,000人以上になりました。若手の吸収力は素晴らしく、多くを学び、またネットワークを築いて帰国します。

帰国すると、なかなか思ったように仕事が進まず壁にぶつかることもあります。このような社員をサポートするために、日本では「つながり」に重きを置いた各種プログラムを用意しています。メンター制度、ネットワーキングランチ、キャリアパス事例発表会などがあり、有効に活用いただいています。

SAP Talkで上司と部下が定期的にコミュニケーション

事業変革が進んだタイミングで、評価制度も大きく変えました。事業構造が変わりビジネスのスピードが加速すると、今までのような全社員を同じ尺度で1年に一度評価する制度が、実態に合わなくなってきたのです。

新しい評価制度では、5段階の相対評価を廃止し絶対評価としました。そして3カ月に1度、上司と部下がコミュニケーションをとることになっています。この「SAP Talk」と呼ばれる面談で、目標、ディベロップメント(中長期目標)、職場環境について話し合い、それを記録に残します。この話し合いをもとに、上司は各部下を評価したうえで、与えられた原資に基づいて次年度の昇格・昇給を決めます。この制度は、自分自身の考えやキャリアを大切にする当社の若手社員に非常にフィットしており、面談の中で個別のアドバイスをもらって成長するきっかけを得ているようです。

SAPにおけるHR Techの活用

次に、SAPジャパン株式会社 人事・人財ソリューションアドバイザリー本部 西館 義幸がHR Techの活用について、SAP SuccessFactorsのデモを交えてご説明しました。



SAPは、SAP SuccessFactorsというクラウド人事ソリューションを提供しています。国内300社以上の実績があり、SAP社内でも利用されています。SAP SuccessFactorsの一つの特長が、タレントマネジメントのみならず、人事給与、勤怠業務などの機能もワンストップで提供され、人事に関わるあらゆるデータを統合し一元管理できるようになっている点です。
人事部門の社員がログインすると、よく使われるメニューが分かりやすく表示されます。各種指標や、育成状況、内定承諾率などがすぐに目に入ります。何か調べたいときには、キーワードで検索ができ、必要な情報やメニューに迅速にたどり着けます。社員一人一人に対して、さまざまな情報が集約された人事台帳のような機能もあり、上司が変わってもスムーズに引き継げます。なおアクセスできる情報は、役割に応じて厳格に制御可能です。

AIで応募データを数値化、マッチングにも有効活用

事業変革以前は、当社の採用は中途が大部分でしたが、新卒採用を増やしたことで、採用業務の負担も増加しました。今では履歴書やエントリーシートが数千通届くのです。また、応募者の合否判断について客観的なデータがなく、本当に正しかったのか、という議論もありました。現在はHR Techを試験的に利用し、AIを使って履歴書を精査、判断の精度を高めています。PDF等の募集要項や履歴書ファイルの中身を自然言語処理、正規化してスコアリングする機能もあり、選考の負担が大幅に軽減されました。ここで出された順位を、一次選考やグループワーク参加候補者の選考で利用しています。過去の応募データも残るため、次に採用を掛けるときの候補者として活用できます。

また、採用後、配属先を決めるのも重要です。これまでは本人の希望や部門ニーズが先行しがちでしたが、若手社員が秘めている持ち味を活かせず、中には退職してしまう社員もいました。このような課題をお持ちであれば、SAP SuccessFactorsをソリューションとして活用することもでき、チーム編成のシミュレーションも行えます。今回は、新しいアイディアを出すためのプロジェクトチーム編成について、デモを行いました。ある調査では、構成メンバーに多様性があるほど新しいアイディアが出やすいという結果が出ています。ソリューションにチームに期待する要件(例:新しいアイディアを出す・イノベーションを起こす等)やメンバー数を入れると、性格や過去の評価、社員間の相性などを分析し、候補者を何パターンか選出します。これまでより、効率的かつ客観的により多様性があるチーム編成案をシステムが提案できるようになります。また、JMAMが提供しているV-CATのデータを活用するといったことも可能になっています。

アプリシエーション・プログラムとオンボーディング

SAPでは以前、主に個人で成果を出すという風土でした。こういった風土を変えようと導入したのがアプリシエーション・プログラムです。これは、システムで感謝の気持ちを伝え合うプログラムで、感謝の気持ちを気軽に送ることができます。感謝の度合い(表彰の種類)によってはポイントが付き、報酬に反映されます。こういったプログラムで、感謝を伝え合い、喜ばれたことを可視化できるようになり、助け合いの文化醸造に一役買っています。

また、仕事を進めるうえで、自分の専門外の知識が必要となることがあります。そんなとき、適切な社員にコンタクトをとるのはなかなか難しいものです。SAPでは、人事システムに自分のスキルを登録するようになっており、これを活用するためのモバイルアプリを開発し、全社で展開しました。これがオンボーディング・プログラムです。若手社員がスマートフォンなどで、スキルを持っている人を検索し、すぐに相談できるようになっています。

相談を持ち掛けられたら、24時間以内に回答するのがルール。どんな相談内容を持ち掛けられても温かく受け入れなければならない、というルールもあり、経験の少ない若手社員でも気負わず相談できるよう工夫しています。もし質問に答えられないときには、ほかの人を紹介することになっています。教わった後は、アプリシエーション・プログラムと連動し、有益な情報が得られたら、ぜひ感謝の気持ちを伝えてください、という流れになっています。

重要だと考える点

本セッションでは、SAPの人事戦略とHR Techの活用事例をご紹介しましたが、何のために実行したか、改めてまとめてみたいと思います。

・事業戦略との整合性と戦略実現の障壁となっている課題認識および解決策立案・実行
・若手社員への期待とキャラクター・持ち味などを加味して組織への組込み、戦力化を実施
・HR Techは課題解決までの時間を短縮する手段として利用

ぜひ、お客様の人事課題を解決するために、ご支援させていただきたいと考えております。SAPジャパンの人事に関する様々な取り組みをこちらでご紹介しています。
https://www.sapjp.com/hr/

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