Vol.14:数年後に事業承継。今、遂行すべき情報化・デジタル化の施策とは?

【お悩み相談No.191001-1】
祖父の代から続くメーカーの3代目です。東京の産業機械の専門商社で働いていたのですが、2代目の父の希望を聞き入れるかたちで1年前から、今の会社にいわゆる“跡継ぎ”として働いています。父は高齢で、あと数年で引退。父を支えてきてくれた工場の技術者たちも高齢化が進んでいます。長く務めてきた父や技術者しか把握していない情報も多く、これからの10年先、20年先を見据えて、業務の見える化、標準化、さらに人材不足を見据えた省力化を実施する必要があると考えています。私は前職で、世界の製造業界で何が起きているのかは見てきたつもりです。その感覚として、うちの会社のように人の力に頼り切った経営では生き残ることは難しいと感じています。
先日、御社のブログ「中堅企業の課題、事業承継と未曾有の人材難にどう対応するか」を拝見し、私の考えていることが書かれていたので、今回お悩みを投稿しました、我が社のような中小企業でもデジタル化は可能なのでしょうか?そしてどのように進めていくべきか、SAPさんなら、こうした企業の場面に多く遭遇したはずです。何かいいアドバイスはないでしょうか。
(製造AQ社 執行役専務45歳/男性)

ブログ『中堅企業の課題、事業承継と未曾有の人材難にどう対応するか』はコチラ

三田さん、またまた深刻なご相談が。相談文も長いですし(切実さが伝わる)。

本当だ。これは確かに深刻だ。会社の浮沈がかかっている。それだけに慎重にお答えしたいのだけど、実を言えば、“事業承継”絡みで、お客様から相談を受けた経験がほとんどないんだよね。重みのある回答ができるかどうか、少々不安。

とすると、師匠(大沢)の出番ですかね。

出番だね。社内にいるのかな。忙しい人だし。

います。先ほど、社に戻ったようです(私の師匠情報収集網によると)。呼びましょう。幸い、次のアポまでに時間がありそうです。

お、いいぞ。つかんでるね、師匠の動き。すぐに呼ぼう。

─5分後─

ちょっと、二人とも人使いが荒すぎよ。前のご相談(*1)に対応したときから、何かというと呼び出そうとするんだから。

*1 前回の相談『Vol.12:「SAP SuccessFactors」は他の人事システムと何が違うの?

いや、師匠。かなり深刻そうな相談ごとが来たので、再度、お力添えをいただこうと(即日レス厳守ですし)。

コラ、三田まで、私を師匠と呼ぶんじゃないわよ。落合さんが、そう呼ぶものだから、周囲が面白がって“師匠、師匠”と呼び始めて大変なんだからね。とにかく、その相談事を見せてみて。

どうですか、師匠。

だから、師匠じゃないっ、つーの。うーん、でも、この相談事は切実だけど、成功するパターンね。

えっ、どういうことですか。

ご自分の人生というか、社運をかけて、デジタル化に挑もうとされているもの。こういう方は敵も作るけど、必死に支えようとする味方も大勢作る。うちみたいなIT企業の人間たちも全力でサポートしようとするしね。『この先20年を見据えた基盤作りに手を貸して欲しい!』と請われて、燃えないIT企業人はいないでしょ。なので、変革が上手くいく可能性大。

それって、デジタル化に成功するかしないかは“気合いの問題”ということですか? デジタルなのに?

デジタル化も、デジタルイノベーションも、人が行うことだもの。GAFAだって、社員のモチベーションを高いレベルで維持することに必死になっているじゃないの。それに、このご相談のように、現場業務の見える化や標準化を推進して、業務から属人性を排除しようとした場合、かなりの抵抗を受けるのは必至。相当の覚悟がないと乗り越えられない。

その覚悟を固めるうえでは、事業承継のタイミングはよさそうですね。

そうなの。だから、代替わりのタイミングで、新しいトップがIT改革に乗り出すケースは意外と多いのよ。もっとも、その裏を返すと、トップ交代のような大きな変化をきっかけにしないと基幹業務やIT基盤のドラスティックな変革は図りにくかった、というのが、これまでの日本の現実と言えるけど。

とりわけ、相談者の方の会社のように歴史ある製造企業は、現場の方が優秀で、経験も豊富、成功体験も積み上がっていますからね。なかなかご自分たちの仕事のやり方を変えないでしょうし、人の力量に頼った業務の回し方が風土として根づいているような気もします。それをガラリと変えようとするのは確かに大変ですよね。

もちろん大変だけど、現実問題として、人の力だけに頼っていては、デジタルを巧みに操る会社に絶対に勝てないもの。相談者の方は、それを知っているから、抵抗に立ち向かう覚悟を固めたのではないかしら。

その決意が、うちへの相談につながったとするなら、相談者の方は、『問題解決の一手はERPにあり(かも)』と考えている、と見ていいのでしょうか、兄弟子の三田さん。

そう見ていいと思うぞ、妹弟子の落合さん。ですよね、師匠。

だから、止めなさいって師匠と呼ぶのは。まあ、とにかく、20年先のことを考えるなら、相談者の方が“高齢化が進んでいる”としている方々が全員引退しても、ビジネスがしっかりと回せる、あるいは、いま以上のパフォーマンスが発揮できるようにしなくてはならないでしょ。それには、ERPによる業務全体の標準化や省力化を実現することが先決。相談者の方もそれに気づいているということかな。

現場の方が後継者を育てようにも、採用難で人がいないのではどうにもなりませんからね。

そうなのよ。ただし、自社のコアというか、生業(なりわい)を支える部分はしっかりと継承しなくてはならない。そこで大切になるのは、デジタル化できるところは徹底的に自動化し、かつ、自動化を阻害するような特殊なプロセスはすべて一掃してしまい、会社にとって最も重要なことだけをしっかりと伝えられようすることだと思う。

その『特殊なプロセス』が競争力の源泉だとしら?

お、いい質問。でも、一つの基幹業務プロセスが競争力の源泉になるようなことはまずないと思う。実際、『これがないと仕事にならない!』と言われて、ERPに追加したカスタムモジュールが、担当者の変更や部門の役割変更であっさり使われなくなり、存在すら忘れ去られていくケースはざらにあるもの。基幹業務での特殊性の高いプロセスって、大抵は過渡的なもので、変化の時代ではライフサイクルがすごく短いのよ。

そうなのですね。

そうなの。言い換えれば、これからの業務システムを考えるうえでは、部門ごとの業務ニーズをどう満たすかではなく、会社全体として、市場の変化や顧客の要求に対応するスピードをどう上げるかに重点を置くべきということかしら。

そして、その課題解決に向けては、「SAP S/4HANA」によって全社の基幹業務を標準化し、あらゆる業務データをリアルタイムに統合化して、各部門の“いま”を可視化したり、業務プロセス間の連携を可能な限り自動化したりするのが最良とお勧めしたい。

加えて、クラウドERPの「SAP S/4HANA Cloud」を採用すれば、初期導入コストも低く抑えられるうえに、標準で用意されているベストプラクティスのテンプレートに業務を合わせることで開発工期・費用も必要最小限に抑えられると。一件落着ですね。

そうそう。それで経営判断も早くなり、急な発注への納期回答も即時的になり、見積作成や、資材発注も自動化できる。結果、顧客満足が高められるので競争力も強化される。

確かにそのとおりだけど、相談者の方の言うデジタル化がデジタルトランスフォーメーション(DX)だとすると、SAP S/4HANA Cloudをお勧めするだけでは足りないような気がするなあ。

どういうことですか?

先にも言ったけど、デジタルイノベーションの推進で最も大切なのは、人材の力なので、相談者の方の『うちのような中小企業でもデジタル化は可能ですか』という質問には、テクノロジーや投資のことだけじゃなくて、人材のことも含まれているような気がする。要するに、デジタルを事業に取り込んで、新しいビジネスモデルや付加価値を生めるような人材が集められるだろうか、という不安。

うーん、確かにそうかもしれないですね。

でも、本当にできるんですか、そのような人材集め。

雇用するのは無理でしょうけど、協力・協業なら可能なので、その意味での人材集めは、企業の規模によらず、その気になればきっとできる。

例えば、どのように進めればいいのですかDX。

うーん、例えば、DXでは、顧客が自社に本当に求めていることを徹底的に突き詰め、そのうえで、顧客欲求を自社のコアとデジタルで満たすための新しいアイデアを考えていく必要があるわよね。なので、そのために、どんな資質やスキル、バックグラウンドを持った人材が必要かを考えることがまずは大切よね。

わかります。

そうしてDXに必要な人材を見定めたうえで、社内を改めて見渡して、DX推進の適任者が誰かを突き止めつつ、社内に足りないスキルや能力、視点を持った外部の人材の協力を仰ぎ、社員たちとチームを組ませるのが通常ではないかな。もちろん、イノベーションの取り組みは、大抵は失敗するので、小さなプロジェクトを立ち上げて仮説・検証を繰り返せるような環境づくりも必要でしょう。とはいえ、DX手法に“王道”なんてないから、あまり型にとらわれずに考えたほうがいいと思う。まあ、この辺りは、相談者の方と直接お会いして、デジタルに何を期待しているのかをお聞きしないと分からないけど。三田は、お伺いするつもりなのでしょ。

ええ、ご相談内容を見た瞬間から、そうしようと考えていました。今、お聞きした内容を踏まえながら、お答えできるところはお答えして、訪問のアポを取ろうかと。

落合さんも、三田に同行するのかな。

いえ、二人とも終日、社からいなくなるのは効率的ではないので、私は社で待機しようかと。相談者の方の会社は、ここから、かなり遠いですから。

でも、ときには現場に立ち会ったほうがいいと思うわよ。お客さま理解とスキル獲得のために。

そうですよね。ならば本日早速、師匠のこれからのアポにお供します。お荷物を持たせていただきつつ。あ、もう時間も迫っているので参りましょう(師匠、急いで、急いで)。

い、いや、それは困る。急には無理。荷物も持たないで。

大沢さん。スキル継承のスピードアップです。20年後のために。

あ、その最後のフレーズが何か、ひっかかるな~。

とにかく、落合さんも俄然、やる気だし、頼みますね。

もう、しょうがないな~。じゃあ行くわよ、落合さん。

ところで、何の案件なのですか?

従業員体験(EX)高度化に向けた情報基盤づくりと運用体制の確立。詳しくは道中で話すから。

お荷物は?

持たないで!それから、お客さま先では、口が裂けても師匠と呼ばないように。

承知しました!

行ってらっしゃーい(うーん、いいコンビだな。相変わらず騒々しいが)。

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