Vol.7:デジタルは本当に大切なの?有効なの?【前編】

【お悩み相談No.190329-1】
うちの会社は、商品の生産効率はいいのですが、昨今の人手不足もあり、周辺業務のパフォーマンスがなかなか上げられずに困っています。生産効率だけを上げても、「売れるモノが企画できない」「モノが売れない」「原材料が適正に仕入れられない」では意味はないですし、市場ニーズはどんどん変化するので、製造部門だけが頑張っていてもダメなような気がします。この前Amazonで ‘Why Digital Matters’という本を見つけて少し立ち読みしましたが、非常に面白い内容でした。うちのような中堅も、デジタルを取り入れて効果を出すことって可能なのでしょうか?
本に出てくるSAPさんなら、いいアドバイスがもらえるのではないかと、相談しました。
(食品加工Y社 経営企画部 39歳/男性)

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Vol.8:デジタルは本当に大切なの?有効なの?【後編】

三田さん、スゴイ!三田さんの言っていた本『Why Digital Matters ?』(プレジデント経営企画研究会 著/発行:プレジデント社)についての質問が来ましたよ!読みがズバリ当たりましたね。

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こらこら、別に、こうした質問が来ることを予測して『Why Digital Matters ?』を読んでおきなさいと、落合さんに言ったわけではないぞ。まあ、デジタルに関する質問や相談ごとは増えるだろうとは思っていたけど。

『Why Digital Matters?』の詳細についてはこちらをクリック
https://www.facebook.com/whydigitalmatters/

大切なんですね、デジタル。ならば「“なぜ”デジタルなのか」(← Why Digital Matters?の副題)。相談者さんのためにお答えを! 三田解説委員。

三田解説委員って誰だよ(笑)。その前に落合さんが答えてみてよ。本の内容を参考に。

あれ、そうきます? 実はですね、第1章に入る寸前で寝てしまい、その後、タイミング悪く連休に突入しちゃいまして、そのまま今日という日を迎えたと。そんなわけで、デジタルを語るには、少し知識の吸収が不十分ではないか、と感じるワケです。

ええっ、それって要するに、序章と目次を読んだだけで力尽きたってこと!?

そういう見方もできますね。

「そういう見方」って……ダメじゃないかそれじゃあ。でもまあ、時間もないから、質問への答えを考えようか。

そうそう、それそれ、ナイス判断。

(ナイス判断って、反省してないのかな、このヒト。)

では、まずはデジタルを取り込む大切さから。

『Why Digital Matters ?』で言うところの、デジタルの取り込み、あるいはデジタル化とは、既存の事業の限界とか、殻とかを打ち破って、顧客との新しい関係を構築したり、新しい価値を生んだり、新しい市場に参入したりするイノベーションを主眼にした取り組みと言えるね。

『Why Digital Matters?』の詳細についてはこちらをクリック
https://www.facebook.com/whydigitalmatters/

そのイノベーションって、すべての会社にとって大切なんですか? もし、今の事業で収益を出せていたら必要ないじゃないですか、イノベ(と、前々から思っていた)。

え? イノベ? ああ、イノベーションのことか。相変わらず変な略語を使うな~(でも採用)。とにかく、イノベは必要だよ。どんな商品にも、ビジネスモデルにも寿命があって、企業も絶えず変化しないと勝ち残れない。

ならば、うちの会社も?

そうだよ。『Why Digital Matters ?』にも書いてあるけど、SAPだってイノベしなかったらすでに市場から消え失せていたかもしれない。どのような会社も、イノベにはどこかで挑む必要があって、それを躊躇していると、デジタルを巧みに使う異業界からの参入組や新興勢力に、市場をあっという間に奪われかねないからね。

そのイノベって、デジタルを使って、まったく新しい事業を立ち上げるという意味ですか? 例えば、SAPが、銀行を始めるとか、ドイツ料理のデリバリサービスを始めるとか。

うーん、『Why Digital Matters ?』が言及しているイノベは、そこまでの飛躍ではないかなあ。例えば、SAPのコアの強みは、銀行やドイツ料理店の経営に活かすべきものじゃないし、そもそもSAPに銀行になって欲しいとか、ドイツ料理店になって欲しいとは、SAPのお客さまや一般の人は誰も望んでいないよね(きっと)。

そうですね~、少なくとも“SAPブランドのドイツ料理”って、あんまり美味しそうには感じませんね。

だよね、それじゃあ上手くいかない。

じゃあどうすれば。

本の記述に従えば、例えば、自社の今の本業、あるいは生業(なりわい)って何で、それを支えている自社の強みって何だろうと考える。

ええ。

で、そこから、その生業に対して、「お客さんが、本当に欲しいもの、望んでいることって何だろう」「どのような目的を果たすために、自分たちの生業にお金を支払っているんだろう」「お客さんも気づいていない、潜在欲求ってないのだろうか」といったことをとことん突き詰めていく。

そして?

そして、その望みやニーズを叶える新しい方法を、デジタルをうまく使って実現していく。それがデジタル戦略を描く道筋であるそうだ。『Why Digital Matters ?』では、このプロセスを、「従来の競争軸(既存事業の強化軸)」を縦軸に、「デジタルによる新たな競争軸」を横軸にした「十字フレームワーク」を使って表現している。分かりやすいよ。

うーん、「十字フレームワーク」ですか~、よく分からないな~。説明を、もっと具体的かつ簡潔にお願いします。

もう、本を読んでいないから、分からんのだよ。例えば、『Why Digital Matters ?』には、大手自動車メーカー、ダイムラーのカーシェアサービス「Car2Go」の話が出てくる。このサービスは、自社ブランドに対する信頼など、自分たちのコアの強みを活かしつつ、自動車に対する本来ニーズを満たす新しいビジネスを考えた結果として生まれたものなんだ。

そうなんですか。

そう、つまり、「どうして人は自動車を購入するんだっけ」と考えて、「ああ、そうか、どこかに移動したいときに、いつでも移動できる手段を手元に置きたいからか」といった結論に至り、「それなら、車を所有しなくても、必要なタイミングで、いつでも車が使えて、乗り捨てられるサービスがあると、結構な数のお客さんが喜ぶぞ。しかも使えるのがダイムラー車なら、安心だろう」と考えた。そして、GPSなどのデジタルテクノロジーを使って始めたのが、Car2Goだったわけ。

なるほど~。

同様のケースで(これは、『Why Digital Matters ?』に載っている話ではないが)、ある航空会社が、「世界中にすばやく移動するのが、お客さんの本来ニーズだ」と、VR(仮想現実)技術やロボット技術を使って、仮想的な瞬間移動にチャレンジしているケースもある。

へえ~、ドラえもんの“どこでもドア”みたいですね。スゴイ! でも、そんなこと実現しちゃったら、本業が大変になるじゃないですか。

そんなふうに考えると、イノベは実現できないからね。どこでもドアを実現したときの市場の巨大さを考えれば、既存事業への影響は考えなくていいといった大胆さが大切。

もっとも、ダイムラーやその航空会社のイノベって、たまたまデジタルテクノロジーがうまくはまっただけで、そうじゃない場合もありそうですよね。

お、なかなかいい指摘。そう、『Why Digital Matters ?』も言っているけど、すべてのイノベにデジタルが必須というわけじゃない。でも、デジタルは、フィジカル(物理的なモノや技術)と違って、あらゆるビジネスに組み合わせられるからね。それに、フィジカルでは持ちえない利点がいくつもある。

例えば、どんな利点ですか。

『Why Digital Matters ?』の言葉を借りれば、一つは、フィジカルと違ってランニングコストが安いこと。例えば、書籍にしても、紙だと複製にお金がかかるけど、デジタルなら複製にお金はかからないよね。もう一つは、劣化しないこと。ハードウェアは必ず経年劣化するけど、ソフトウェアやデータはいつまで経っても劣化しない。劣化しないどころか、AI(人工知能)なんて、使えば使うほど、学べば学ぶほど強化される。そんな技術や素材ってフィジカルの世界にはまだない。

言われてみれば、そうですね。

また、世界の数十億人とリアルタイムにつながれて、情報が共有できるなんてことも、フィジカルでは実現不可能だった。おまけに、デジタルのテクノロジーは疲れないし、ミスはしないし、スケールが効き、人には到底できない計算が猛烈に速い。何を始めるにしても、デジタルを使わない手はないじゃない。

でも、デジタルを取り込むのってお金が必要ですよね。ダイムラーとかは大企業なので、お金がありそうですけど、相談者の会社は、それほど大きくないようです。だから、中堅企業にもデジタルは有効ですかって心配しているんじゃないのかな~。

そうだった。まあ、確かに、一昔前は、資金力の大小によって、使えるデジタルテクノロジーにかなりの格差があったけど、デジタルテクノロジーとクラウドコンピューティングが高度に進化・発達したおかげで、今日では、そうした格差がどんどん“ゼロ”に近づいている。

そうなんですか。

しかも、クラウドプラットフォームを使えば、ビジネス成長に応じてサービスのスケールを無限に近いかたちで拡張していける。だからこそ、小さなスタートアップが短期間のうちに超巨大企業に成長できるわけで、そう考えれば、デジタル化が有効かどうかと組織の規模とはあまり関係ないと思う。

三田さんの話をまとめると、企業規模の大小にかかわらず、新市場を狙ったデジタル競争は、横一線でヨーイドン! の状況と考えればいいわけですね。

お、いい感じ。そう言えるね。ただし、それは、必ずしもベンチャーや中堅企業に有利ってことじゃない。大規模で体力のある企業も、ベンチャーや中堅企業が狙っている市場を同じように狙ってくる可能性が大いにある。ゆえに、中堅の企業もデジタルの取り込みやイノベに積極的になる必要があると言える。

あれ~、そう考えると、やっぱりデジタル競争では大手のほうが有利じゃないですか(体力がある分)。

いや、それは違う。仮に、体力的に足りない部分や機能的に足りない部分があって不利だと考えるなら、デジタルをうまく使って、同業他社や異業種企業と協業したり、エコシステムを築いたりするというやり方がある。そうすれば、中堅の企業だって大企業に負けることはないし、逆に、抱え込んでしまっている資産が少ない分、協業の輪が自由に広げられて有利かもしれない。

例えば、どんなふうに他社と組めばいいんですか?

それはいろいろだけど……そうだね、例えば、同じようなモノを作っている中堅のメーカーが九州と北海道あって、それぞれが企画・設計した商品を、互いの生産現場のリソースを使って作れるようにしたとしたら、どうなると思う?

えーっと、そうだ、例えば、九州にしか工場のない地場のメーカーが、北海道のお客さんから注文を受けたときに、北海道でモノを作って運べることになりますね。すごい効率化につながるかも、それって。

そう、正解(ときどき、理解が早いんだよな、このヒト)。で、そんな協業の輪を全国に広げられるなら、中堅のメーカーはおろか、小さなメーカーでも、大手に負けない生産・販売・物流網が作れちゃう可能性があるよね。

確かに、そうですね。

そしてデジタルを使えば、そうした協業の輪を支えるプラットフォームが容易に構築できて、低コストで運用していける。つまり、デジタルをうまく取り込むことで、さまざま商品の企画・設計の頭脳をたくさん持ち、かつ、優秀な生産現場を各所に擁する大メーカーが仮想的に形成できるということだね。そこから革新的な商品やサービスがさらに生まれる可能性も広がっていく。

なるほど。

もちろん、協業のプラットフォームを構築するのは簡単でも、異なる企業同士で組むには乗り越えなければならない組織的な壁がいろいろとある。なので、トップダウンでの思い切った決断がとても重要……って、聞いてないし。どうしてスマホをいじっているのさ!(人が話をしているときに)。

あ、すいません。でも、ほら、もうすぐお昼の時間ですよね(時計を見てください時計を)。今日は△△部のA子さんと、ランチの約束をしてあるんです。その行先と待ち合わせ時間の確認でした。少し私が遅れそうなので(三田さんの話が長いせいで)。

ああ、そうなの、会社のA子さんと一緒にランチね。それは、とっても重要な約束事を邪魔したようで、すまなかったね。

あ、いいです、いいです、気にしないでください、仕事ですから。

(あれ、今、嫌味を言ったつもりだったんだけど、通じてない?)

ということで、話の続きは午後1時15分から、この場所で、ということで、よろしいでしょうか。解説の三田さん。

う、うん、わかった、わかった(もう、さっさと食べてきてちょうだい)。

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